筆者が1980年にニューヨークに移住したとき、春になって驚いたのは桜の木が多いことだった。だが当時のニューヨーカーは特に関心を示す様子もなく、日本人のように桜を特別にめでる習慣はなかった。毎年春には日本人グループで集まって、セントラルパークの桜の木の下で控えめにピクニックを楽しんだが、静かにのんびりとお花見を楽しむことができたのである。
だがそれも過去の話。現在ではセントラルパークの公園ウェブサイトにも、桜の開花状況のページが作られて、春になるとニューヨーカーたちも日本並みに桜の木を目掛けて押し寄せるようになったのだ。
この「Ohanami」ブームの火付け役は、マンハッタンの南東側、ブルックリンにあるボタニカル・ガーデン(植物園)の「Cherry Blossom Festival」(桜祭り)だった。
日本文化に興味なさそうな人も
マンハッタンのウォール街から地下鉄で20分ほどのこのボタニカル・ガーデンは、全米で最も古い日本庭園がある場所でもある。園内にはおよそ220本の各種桜の木があり、1982年に最初の桜祭りが開催された。日本舞踏や和太鼓、折り紙教室などのイベント、フード屋台なども加わって、それなりの人出を見せたが、特に日本文化に興味のなさそうな一般人も桜を求めてやってくるようになったのはごく最近のことである。
「私がブルックリンに引っ越したときは桜祭りのことは知っていたけれど、そこまで大きなイベント、という意識はなかったんです」
と語るのは、40年以上もブルックリンに住んでいる60代のアニタさん。医療関係の仕事をしているという。
「でもだんだん人気が出てきて、春になったら絶対に逃してはいけない一大イベントになっていきました。でもそうなってきたら人出がすごくて」
と苦笑い。