ブルックリンのボタニカルガーデン以外でも、桜祭りを開催している場所はニューヨーク市内にいくつかある。マンハッタンとクイーンズ区の間にあるイーストリバーに浮かぶルーズベルト島も、その一つだ。マンハッタンから地下鉄で一駅、トラムと呼ばれるゴンドラだと5分で渡ることができる静かな住宅街である。
東日本大震災の被害者のためのチャリティー企画として、2011年に日本領事館の肝いりで第一回桜祭りが開催された。もともと川沿いに植えてあった染井吉野や、八重桜の関山などに加え、このときは、しだれ桜などの苗木も寄贈された。琴の演奏会や、お茶会なども開催されたが、開催当時は訪れる観客も少なく、島の住民が興味本位でのぞきにくる程度の閑散とした桜祭りであった。
だが毎年開催されていくうちに、地元のテレビ局やイベント雑誌などで大々的に取り上げられ、人が増え始めた。そしてピークは19年4月の週末に行われた桜祭りである。
地下鉄が駅に停車できないほどの混雑に
人口1万人あまりの静かなルーズベルト島に、一日で2万人のお花見客が押し寄せた。主催側のRIOC(ルーズベルトアイランドオペレーションコープ)も、MTA(メトロポリタン交通当局)も予測していなかった混雑が発生したのである。
正午過ぎにはルーズベルト島の地下鉄の駅が、到着した乗客と帰ろうとする乗客でいっぱいになり、前にも後ろにも進めないという緊急事態が発生。急きょMTAは、マンハッタン側から到着する全ての電車を、この駅に停車させずに通過させるという強硬手段に出た。島を目指してきたお花見客たちは、強制的にクイーンズ区まで連れて行かれるという事態に陥ったのである。
そして、島の桜の木の下は、ピザなどを持ち込んだ家族連れで埋まり、ゴミ箱はあふれてまわりもゴミだらけ。なぜか浴衣のようなものを着たコスプレ風のアジア人観光客の姿も目立った。
だがこの狂乱も、コロナパンデミックでいったんリセットされた。ボタニカルガーデンも含めて、全ての桜祭りが中止となったのである。