「会いたい人に会いに行く」は、その名の通り、AERA編集部員が「会いたい人に会いに行く」企画。今週は広島を象徴するあのソース会社の人に、おいしいもの好きな記者が会いに行きました。
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広島の街には、“引力”がある。「昼ご飯は何にしようかな」と夫の単身赴任先である広島の街を歩いていた時のこと。お好み焼きのにおいがした瞬間、「今日の昼はお好み焼き」と確定し、においの元である店に吸い寄せられた。
広島のお好み焼き店は、いつもにぎわっているイメージがある。観光名物だからだと思っていたが、食べるのは観光客だけではないらしい。
なぜお好み焼きは、こんなにも人を引き付けるのだろう。お好みソースで知られるオタフクソースに「お好み焼課」という部署があると聞き、お好み焼課・課長の春名陽介さんに会いに行った。
お好み焼課はお好み焼きの普及、研究に特化した部署だ。店を開業したい人のために焼き方の研修、小学校での出前授業を開く。お好み焼き店を食べ歩いて市場調査、お好み焼きを研究して新しいレシピ作りもしている。お好み焼きを作り、食べることが仕事なのだ。
広島市内にあるオタフクソースの施設で、春名さんはコックコートで出迎えてくれた。
「お好み焼課には、本当にお好み焼き好きな人たちが集まっています。私は週に5枚くらい食べていますね」
そもそも広島のお好み焼きとは何か。大阪のお好み焼きは具材を混ぜて焼くが、広島では重ねて焼く。
「広島のお好み焼きには、サンドイッチの美学があります」
上から、生地、キャベツの甘み、香ばしい豚バラ肉、パリッと焼いた麺、一番下に卵のうまみが重なり、ソースをまとっている。
「層の上から下まで、一口で食べてください。おいしいお好み焼きは、キャベツが甘いんです。この層の中で蒸されたキャベツの甘みを基本として、一つ一つの素材のうまみを引き立てています」
サンドイッチのように、パンだけ、ハムだけの単体で食べることはない。全ての具材を一緒に食べることで、味が調和する。それが広島のお好み焼きのおいしさだという。