しかしここは心を鬼にして、「世直しオカマ」としての務めをまっとうしなければなりません。4本の生脚が上下左右に広がる新幹線の通路に黙って立ち尽くす厚化粧をした妙齢の日本人男性に、マッスル・ブラザーたちも怪訝な目を向けています。

「Hello, guys! Looks you are having fun, and I’m not intending to disturb your wonderful holiday. But there is one thing I dare to say. Guess what. You are just too wild and too hot for us being our neighborhood here in this compartment. Definitely for me! These legs of yours can never be bad things to watch all through my journey to Osaka. Where are you going? Kyoto? Still 2 more hours left. Do you think I can manage this heat coming out from deep inside my body? Oh no! I don’t think so.」

「どうも。お楽しみのところお邪魔するつもりではないのですが、ひとつだけよろしいかしら? お兄さん、ちょっとイケ過ぎ! ヤバ過ぎ! 同じ車両に座っている人たちもだけど、間違いなく私にとってその脚、大阪に着くまでずっと眺めていられるぐらい、最高の景色ですよ。どちらまで? 京都? じゃあ、あと2時間もこのムラムラを抱えていられるかって? 無理だと思うわ」

 てなことを、ひとしきりグリーン車の通路で多少くねくねしながら芝居を打ちました。芝居といえども、私の言葉は本音です。「できれば触ってみたい」「脛に頬をすりすりしていいかしら?」などと聞くのだけは必死で抑えました。

 しかし、この一世一代のオカマ芝居に、彼らはポカーンとしているだけ。途中「OK!」「Haha!」ぐらいの合いの手は入ったものの、前列シートのてっぺんにまで伸びた褐色の脚はそのまま。隣のマッチョに至っては、彼女とNintendo Switchか何かで遊び出している。「うるせえ!」「失せろボケ!」などといった反応すらなく、ただの空気と化した妙齢の日本人オカマとしては、ただその見事な褐色の生脚を舐めるように凝視するしか為す術はありませんでした。
 

 すると、女性の車掌さんがツカツカと私たちの区画へ向かって歩いてきました。そして次の瞬間、前列のヘッドレストにまで伸ばし切っている土足の脚を「OFF! THANK YOU!」とひと言だけで払い除けて、また次の車両へと移って行ったではありませんか。

 円安時代と戦う新しい「ジャパニーズ・ワーキング・レディ」の真骨頂を見た気がしました。

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