約12年ぶりとなるアルバム「アンジェラ・アキsings 『この世界の⽚隅に』」

「この世界の片隅に」で日本での活動を再開

 そして昨年、2024年5月から日本各地で上演されるミュージカル作品「この世界の片隅に」(原作マンガ:こうの史代)の音楽を担当することを発表。10年ぶりに日本での活動を再開させた。太平洋戦争末期の呉を舞台に、大きな時代の流れに巻き込まれながら、必死で日常を生きる人々を描いた「この世界の片隅に」は、2016年にアニメ映画化され大ヒットを記録した。

「もともと原作の漫画が大好きで、映画も観ていて。この作品をミュージカルにするのなら、ぜひ参加したいと思いました。私は昭和生まれの昭和育ちで、自然が豊かな徳島の出身。『この世界の片隅に』で描かれている風景や状況も、自分の琴線に触れるんですよね。背景には太平洋戦争があるし、単なる人情話とはまったく違うんですけど、作品の世界に共感できたことはすごく大きかったです」

 ミュージカル「この世界の片隅に」のために約2年間で30曲近い楽曲を制作したというアンジェラさん。アメリカで発展したミュージカル音楽への深い理解、そして、日本の原風景に対する共感。アメリカと日本という二つのルーツを持つ彼女がこの作品に関わったのは必然だったと言えるだろう。

「アメリカのスタッフと仕事をしていても、“不思議なバックグランドですね”とよく言われます。英語が話せるから普通に溶け込んでいるんですけど、中身は日本人、徳島人だから、仕草や言葉遣いがアメリカの人たちとちょっと違うんですよね。それが自分の強みになればいいなと思っています。たとえば、“ピクサーが日本を題材にした映画を作る”ということになったとして、“だったら音楽はアンジェラだよね”と結びつくような音楽家になりたいんですよね」

 ミュージカルの開幕に先がけ、4月にアルバム「アンジェラ・アキsings『この世界の片隅に』」を発表。彼女のボーカルアルバムは、じつに12年ぶりとなる。

「ここ数年、シンガー・ソングライターがミュージカル音楽を担当して、その曲を自分でも歌うことが増えているんです。『この世界の片隅に』の音楽を作らせてもらって、すごくいいものが出来たという自信もあるし、舞台を見る前後に聴いてもらえるアルバムを作りたいなと思ったんですよね。ただこの10数年、歌のトレーニングはほとんどやっていないんですよ。デモ音源のために歌うことはあっても、人前で歌ったり、レコーディングもやってなくて。でも、いざ歌ってみたら10年経っている感じはしなかったし、すごく楽しかったですね」

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大ヒット曲「手紙」について