犬をなでたり、好物のアイスクリームを食べたり。日常の延長で旅立てるのも在宅介護ならではだ(撮影/大崎百紀)

 父は昨年12月、入居していた有料老人ホームでコロナに感染していることがわかった。高熱は1週間で落ち着き、日常生活に戻ったが、再び39度の発熱で緊急入院。重症肺炎となり、治療をしても一向に改善せず、医師から「1週間もつかな」と言われた。

 病院で見送るのは避けたい。私は父が大好きだった家で、温かく看取ることを決めた。

 今回、入院生活から、住み慣れた我が家での「在宅看取り」にスムーズに移行できた要因は、一番に長い付き合いの在宅クリニックの医師の存在が大きい。

 通常、高齢者施設で暮らす入居者は、施設が提携する在宅クリニックの医師と契約して往診を受ける。しかし父の場合は、持病(骨髄異形成症候群)で通院していることもあり、施設提携医ではなく、別の在宅クリニックと契約をし、在宅介護時代からの医師の診察を継続させていた。入居していた有料老人ホームでもそれが可能だった。

発信&着信履歴が49件

 病院で、医師から余命宣告を受けた日の夜、在宅クリニックの医師に父の状態と私の希望(延命はしない/別れを受け止めている/ただ家で穏やかに送りたい)を伝えると、それを受け止めてくれた。

 その翌日。在宅看取りを始める準備を行った。その日だけで発信&着信履歴は49件。私は父が死んだ日よりこの日を忘れられないと思う。

 朝一で、父のいる病院に「明日退院します」と電話し、診療情報提供書の準備を依頼。次に介護タクシーの予約。予約時間にあわせて、病院側に退院準備を依頼。退院時間が決まると、在宅医に翌日の訪問診療のアポをとる。そして在宅医療に必要な機械の手配。酸素吸入器は在宅クリニックを通して依頼し、喀痰(かくたん)吸引器は福祉用具としてレンタルした。メーカーから納品希望日を聞かれ、「明日か今日で!」と即答する。

 ほかに、介護ベッドや点滴台、ベッドサイドテーブルなど必要な福祉用具も、ずっとお世話になっている福祉用具専門相談員に手配を依頼した。在宅医同様、彼ともずっとつながっていたことが幸いした。ショートメールでもやりとりでき、レスポンスも早い。訪問介護事業所とのアポもとった。父のいるホームへの退去希望の連絡もした。解約手続きと、荷物の引き取り日の調整をするが、すぐにホームには行けない。荷物があるだけで発生する家賃が痛かった。これまでは「いつか戻る」と信じていたホームだが、もう戻れないと悟った途端、日々のコストが急に無駄に感じた。

 ホームのケアマネジャーには、施設での介護記録などの情報提供書の準備を依頼し、父の下着やパジャマなどを取りにいくと連絡する。夕方、さっそく実家に介護ベッドが搬入された。組み立てに立ちあったのちに、病室に行き、夜まで父に寄り添った。父に言う。

「明日、一緒におうちに帰ろう」

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