フランス郊外の団地。8歳のリンダは母ポレットと二人暮らし。ある日、亡き父が母に贈った指輪をめぐる勘違いから、母はリンダに「なんでもする」と謝る。リンダが頼んだのは、父の思い出の料理パプリカ・チキン。だがチキンが手に入らず──? 世界各国の映画祭で話題のアニメーション「リンダはチキンがたべたい!」。実写制作者のキアラ・マルタさんとアニメーション制作者のセバスチャン・ローデンバックさんに本作の見どころを聞いた。
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私たちは20年以上、一緒に作品を作ってきました。今回は子ども向けの上質な作品を作ろう、それはきっと大人にも受け入れられるだろうと考えました。コメディーでありながら記憶や死別について描いてみたのです。記憶とは不思議なものです。子どもはよく「自分が赤ちゃんだったときはどうだったの?」と聞きます。ほんの数年前のことなのに別人のようになっている。その現象が不思議だと思っていました。また大人にとってもですが、子どもにとって「不正義」は大事なテーマです。フランスでは子どもが「ずるい」と言うとき「不正義だ、不平等だ」という言葉を使います。リンダは自分が悪いことをしていないのに母に疑われてしまう。そのときの子どもの気持ちを丁寧に描きました。
本作のキャラクターは私たちの子どもを観察したというより自分自身を観察して作った気がしています。私たちは完璧でない大人を描きたかった。よく映画で描かれるお手本のような英雄的な親ではなく、自分たちがよく知るありのままの親の姿です。母ポレットはやってはいけないことですが最初から子どもを疑ってしまいますし、夜出かけたり、台所で疲れてボーッとしたりする。でも優しさがあり人を許すことができる。そういう女性を描くことで観客もコンプレックスを持たずに観ることができるのではと思います。
線画の雰囲気から高畑勲監督の「かぐや姫の物語」を思い出すと日本の方によく言われるのですが、影響を受けたわけではなく、アニメーターとしてずっとこのやり方をしてきました。キャラクターを一色で表すなど現実離れした表現のなかでも人間のありのままの姿を描くことができたかなと思っています。笑いながら感情のままに楽しんでいただければ嬉しいです。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2024年4月15日号