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 さて、うさみみさん。「共同親権」で、僕が一番心配するのは、「特別な関係」つまり、DVパートナーとの関係です。

「共同親権」の法制化にあたり、「DVや虐待の事案は裁判所が除外して両親の合意を条件に適用する」という説明がされています。

 つまりは、DVがあるかどうか、本当の合意かどうかを家庭裁判所が判断するということです。

 DVというのは、アザができるぐらい殴ることだけではありません。精神的DVや経済的DVなど、証拠が残らないまま陰湿に行われるものも多くあります。というか、こっちの方が多いと言えるでしょう。

「ほがらか人生相談」にも、モラハラ夫に苦しめられているという妻の悲鳴のような相談がきます。言葉で存在を否定され、罵られ、追い詰められて、充分な金銭も与えられてないという相談です。

 そういう夫は、外面がよく、近所では評判の「旦那さん」だったりします。逆にモラハラに苦しめられている妻は、不安定で近所の評判が芳しくないことも多いのです。

 さまざまな形のDVが激しくなると、パートナーにコントロールされるようになります。DVとは、つまりは「相手を支配する」ということですから。

 裁判所に質問されて、「共同親権」を合意していると片方が饒舌に語り、片方が黙ってうなづくだけというパターンも起こるでしょう。

 問題は、怪我や診断書のないDVはないのか、本当の合意なのかを、双方の事情を聞くだけで裁判所は見抜くことができるかどうかです。

「共同親権」を勧める人達は、裁判所は見抜けると思っているのだと思います。「単独親権」に比べて、「共同親権」になれば、裁判所が関わる事案は増えると思われます。いったい、裁判所はどういうシステムで、どういう態勢で見抜いていくのか、ぜひ、知りたいと思います。

 また、そもそも、「共同親権」を勧める人達は、DV事案が離婚事案の中では少数だと思っているのかもしれません。

 ですが、20年に「NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ」が約500人にアンケートを取った結果、協議離婚の理由のうち「性格が合わない」は34%ですが、「精神的に虐待する」が40%でした。

 精神的DVは少数ではないということですね。

「共同親権」を待ち望む人達によって、この法案は素早いスピードで進んでいるのでしょう。会えないわが子に早く会いたいと思っている非親権者の方もいるでしょう。

 ですが、共同親権は、「子供は親二人で育てるのが子供にとって良いことなんだ。離婚しても、それは当然のことだ」というような単純な理由で考えるものではないように思えます。

「どうやって裁判所はDVを見抜くのか」をはじめとして、「見抜けなかった場合どうするのか」「子供が虐待されたらどうするか」など、もう少し法案を成立させる前に、国民に説明することは多いと僕は思っています。

 うさみみさん。これが今の僕の考えです。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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