神風特攻隊の若者も、国のために命をささげ、靖国で仲間に再会するという軍部が作ったストーリーを信じて散って行った。これを美談として伝える映画などは後を絶たないが、そうした犠牲を生んだ加害者である靖国神社の重大な罪について、どれだけの若者が思いを馳せることができるのか。教科書改訂などにも表れる平和教育の形骸化もまた心配を増幅させる。
ちなみに、中国の「中国国際報送局(CRI)」は、中国外交部(外務省)の林剣報道官が3月19日の定例記者会見で、今回の自衛隊の元将官の宮司就任のニュースについて、「侵略の歴史を確実に正視し、反省し、実際の行動で軍国主義を徹底的に切り離し、アジアの隣国と国際社会からの信用をさらに失墜させないよう促す」と表明したことを伝えた。
私が心配するシビリアン・コントロールの形骸化という視点はなかったが、侵略を受けた側が、より敏感に反応するのは当然のことだ。
もう一つ、中国の側にも心配な事態が生じているという話を、日中関係を専門とする著名な日本の大学教授から聞いた。それは、ある中国人の政治学者の話だ。当然のことながらオフレコの話だ。
その教授によれば、中国政府は習近平国家主席を含めて共産党による軍の支配、すなわちシビリアン・コントロールの重要性は十分に認識している。
しかし、最近、軍部にはそれと異なる姿勢をあえてにおわせるような動きが出ているという。具体的なことまでは言わなかったが、これまでにないことが起きているという話だったそうだ。
日中双方でシビリアン・コントロールに不安が生じているとすれば、両政府の意思と無関係な紛争が生じる可能性が出てくる。
日本の自衛隊が現在のような行動をエスカレートさせれば、中国の軍部も警戒を強め、中国共産党中枢を突き上げたり、あるいは、共産党の意向を無視する行動に出たりするリスクは確実に高まる。
今回の一連の自衛隊と靖国神社の行動がすぐにそういう事態につながると言いたいのではないが、方向としては、確実にそちらに向かっていると見るべきではないのか。