(C)NHK
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 ウエルメードだった。が、惜しかったなーと思う。「晩年の美学」という今日的テーマに迫ったのに、最後まで踏み込むことはしなかった。だから全編を通して何がいちばん残っているかと振り返れば、「六郎とその死」だった。六郎を演じた黒崎煌代さんという新人が素晴らしかったこともある。赤紙が届いてはしゃぎながら、その直後に「大きい声、好かんねん」という。あの場面を思うと、今も心が揺れる。

 やはり、戦争だな。そう先述した。逆にいうなら、戦争なき朝ドラは難しいだろうな、となる。ここまで「晩年の美学」と書いてきたが、これは私が63歳になっても中途半端に働いている女性だから感じたのかもしれない。「晩年と仕事」に興味を感じる人は少なくないはず。そう思いつつ、それも自分の属性ゆえの思い込みかもしれないし、「師弟愛」の方が多くの人に響くのかもしれない。そんなふうにも思う。

 価値観の多様化。言ってしまえばそれだけの、とっくに当たり前のことだろう。でも、朝ドラには逆風かもしれないと思うのだ。「多様な価値観」のうちの一つに絞れば、「それ以外の価値観」の人は離れる。朝ドラ制作では避けたい事態、と想像する。1945年に終わった戦争は、どんどん遠くなっている。だが戦争は今も「多様な価値観」を超えた存在で、六郎を前に心揺さぶられない属性はないのだと思う。

 4月1日から「虎に翼」が始まる。ヒロイン寅子(伊藤沙莉)のモデルとなった三淵嘉子は、笠置シズ子と同じ1914年生まれだ。戦争と寅子は、どう描かれるのだろう。

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