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 それなりにいろいろあっても、結局のところ消化試合。それが朝ドラ最終回への道の宿命だと思っていた。「そうして、幸せに暮らしましたとさ」とヒロインの人生を終わらせることがお約束だから、と。

 ところが「ブギウギ」のラスト2週は、「消化試合」ではなかった。スズ子(趣里)の人気低下という「負」の側面にスポットを当て、「引退」という結論がドラマを盛り上げた。長く働けば働くほどほめられる。そんな昨今の風潮にあらがうように、スパッと「引退」を決めたスズ子。これは問題提起なのか? そんなふうに見ていた。

 引退の始まりは、水城アユミ(吉柳咲良)という新人歌手の台頭だった。その人気ぶりに「ブギはもう終わり」と雑誌は書く。しかも水城は、亡き大和礼子(蒼井優)の娘というサプライズ。絶妙な仕掛けに、「やるなー」と心が弾んだ。年末の「紅白」ならぬ「男女歌合戦」での水城&スズ子は圧巻で、「ブギウギ」のステージは花だったと思う。

 きっかけは水城だが、引退の理由は他にある。それをスズ子はたくさん語った。つまりは「美学」の問題だった。が、最終回を見終えての結論は、ブギウギのクライマックスは「スズ子の弟・六郎とその死」だったということだ。そしてもう一つしみじみ思ったのは、「やはり、戦争だな」だった。これは「ブギウギ」にとどまらず、朝ドラの難しさを表していると思うのだが、まずはスズ子の引退から。

 引退を決め、まず羽鳥(草彅剛)に報告する時、スズ子はこう言った。「ワテは年末の歌合戦で、燃え尽きたと思いますねん」「多分、もうこんなふうには歌われへん気がするんです」。引退発表の記者会見では、「まだ歌おうと思えば歌えますし、踊ろうと思えば踊れますけど」と言ってから、こう言った。「お客さんにも喜んでもらえて、自分自身も満足できる福来スズ子でいることが、もう難しいようになってきたいうのが一番の理由ですわ」。そう、晩年をどう見せるか。そういう美学の話なのだ。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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