「それから人から聞いた健康法は何でも真似した。(あらゆる健康法を試した結果)体操のおかげで元気なんじゃ思いますね」
1時間のウォーキングと体操は同じ効果があると聞き、テレビ番組を参考に20分の体操を始めた。30年間一日も欠かさない。
「長生き体操を見せてもらえませんか」と頼むと、川本さんはごろりと畳に転がった。
「起きたら、そのまま布団で体操します」
ダイジェストで伝えると、背中の筋肉を緩めた後、寝たまま片足を90度真上に上げて、ピタッと停止。足をゆっくりと下ろして、太ももの筋肉を伸ばした後は、腰を浮かせて、宙で自転車を漕ぐように両足を動かした。
立ってからは、かかとを浮かせて背伸び、スロースクワット。襖を支えにして片足を上げて、つま先を片手でキャッチした。
それにしても、なぜレースに出たのか。長年、次女・圭子さん(65)が町内運動会で走る姿を見て「私の方が速い」と言っていた。そして、親戚が集まった一昨年のある日、そんなに言うなら「マスターズで走ったら」と甥に提案された。
「ものは試しに」と、自宅前の道路100メートルを走り、長男の英雄さん(74)にキッチンタイマーで計ってもらったら、日本記録を3秒ほど上回っていた。親族一同、衝撃を受けて、大会に申し込み、レース当日は、ひ孫らも応援に駆け付けた。
200メートル走では、転んだものの完走して、日本記録を上回った。幸い骨折しなかったが、「足がもつれたけど、急に止められんのです」と悔しそうだった。骨年齢は65歳らしい。
「これからもチャレンジしたいけど、こけて動けんくなったら迷惑かけるけんね。走りたいのは山々じゃけどね」
弱気だった川本さんに、圭子さんは「100歳になってから走って、新しい記録を作って」と応援すると、川本さんは「生きとったらね」と笑った。
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2024年4月1日号