新連載「会いたい人に会いに行く」は、その名の通り、AERA編集部員が「会いたい人に会いに行く」企画。今週は95〜99歳クラス100メートル走世界記録を超えた女性に、長生きの秘訣を探求するアラサー記者が会いに行きました。
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昨年、95歳にして陸上競技の世界記録を超えた。
広島県の川本静子さん(96)は、2023年の広島マスターズ陸上競技選手権大会で女子95〜99歳クラスの100メートル走で世界記録(30秒16)を抜く28秒85のタイムをたたき出した。
レースの映像を見ると、体の軸がぶれない走りだった。同時に出走した年下クラスの選手を追い越してゴールした。
なのに、95歳で初出場するまで、運動経験はほとんどなし。
川本さんは、瀬戸内海の大崎上島(おおさきかみじま)で暮らす。レモンやミカンが育つ温暖な島だ。
玄関先で出迎えてくれた川本さんを一目見た瞬間、記者の思考が停止した。90歳代の立ち姿とは思えないのだ。
まっすぐに記者を見る川本さんの目には力があり、背筋も曲がっていない。「よくいらっしゃいました」と言うと、「中へどうぞ」とヒョイと体を翻し、家の中に入っていった。
座布団に正座して「耳が遠い」と大きな声で言って笑った。今も自宅の畑でタマネギなどを育て、時に山へミカンの収穫に行く。食べ物の好き嫌いはない。
「病気をしたことがないです」
だが、若い頃は違ったそう。
「元気だったが、風邪をよく引いとった」
でも、運動は好きだった。
「学校の休み時間はドッジボールをしていた。バレーボール、走り幅跳びも何でもした」
学校の陸上大会の選手に選ばれたこともあったが、唯一のスポーツ経験といえば、海運業を引退して60代で始めたゲートボール。そこで、仲間から教えてもらった「寝る前にうがいをして、起きたら夜に沸かした水を1杯飲む」という健康法を実践すると、それが理由か風邪を引かなくなったという。