柔らかな背後
ただ、動揺の度合いには、二つの要塞の間でかなりの差がある。
ピーターセンが指摘するように、現在のロシア海軍は聖域周辺の広範な海洋を制圧(コントロール)する代わりに、SSBN基地や指揮通信結節、経済中枢といった重要拠点を重点的に防護する方針を採用しており、このためにセンサー(レーダーや水中聴音システム)、電子妨害システム、囮、防空システム、航空機などによる重層的な防衛網を展開してきた。このような防衛網が最も手厚く配備されているのがバレンツ海周辺で、要塞の城壁は依然として相当に手強いものであることが見て取れよう。
オホーツク海周辺でもこれと似たような軍事力の整備が進んでいるが、北方艦隊と比較すると手薄であると言わざるを得ない。特に目立つのはレーダーなどの長距離センサーと航空戦力の乏しさで、前述したSSN/SSGNの不足を考えるならば、有事におけるSSBNの「戦闘安定性」にはかなりの不安が残る。
しかも、オホーツク海の聖域には、バレンツ海にはない地理的脆弱性が存在する。
第一に太平洋艦隊の水上戦闘艦艇は、日本周辺の三海峡のいずれかを突破しない限り、外堀として機能できないのである。かといって、カムラン湾という拠点を失った現在のロシア海軍が三海峡の外部に大規模な対艦攻撃部隊を常時配備しておくことはもはやできず、有事において外堀がどこまで機能するのかについては改めて疑問符が付く。