したがって、問題となるのは、そのもう一つ上の層、すなわちウクライナに対する停戦強要や米国・NATO(北大西洋条約機構)の参戦阻止を図るためのエスカレーション抑止(E2DE:escalate to de-escalate)型核使用の可能性である。その具体的なオプションは幅広く、戦術兵器によるデモンストレーション的な限定核攻撃も考えられれば、『2030年までの期間における海軍活動の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎』が述べるような、海軍による非戦略核兵器の使用(例えば艦艇発射型巡航ミサイルによる限定核攻撃)、さらにはSSBNによる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)攻撃までが想定される。最後のオプションについて言えば、ここには、オホーツク海の聖域から少数(または単発)のSLBMを発射して北極海上で核爆発を起こしてみせるといった可能性も含まれよう。これだけでウクライナが侵略への抵抗を諦めることはまず考えがたいにしても、西側諸国の中でもともとウクライナ支援に否定的な態度を示す勢力を勢いづかせることは期待できるからである。
このような可能行動のうちどれを選ぶのか、あるいは選ばないのかは、プーチンという一人の男のその場限りの判断にかかっている。したがって、以上は、ありうべきロシアの核使用がこのようなものであると予言するものではない。むしろ、そのような予言を行うことが困難であるからこそ、オホーツク海の聖域はウクライナでの戦争を継続させる力を持っているのである。
要塞の戦い方――揺らぐ「戦闘安定性」
今度は、オホーツク海を含めた聖域が、戦時においてどこまで聖域でいられるのかを考えてみよう。つまり、有事において要塞はどのように戦うのかということだ。