「俺の居場所はここじゃない。あっちだ」
中島さんがサンバを踊り始めたのは、大学の「ラテン音楽研究会」でのサークル活動がきっかけだった。大学3年のとき、本場のカーニバルを見るために、友人たちとリオを訪れた。心中に“異変”が起きたのは、コンテストの3日目を見ていたときだったという。
「何を血迷ったか、『俺の居場所はここ(観客席)じゃない。あっちだ』って思っちゃたんです」
どこに惹きつけられたのだろうか。
「踊っている人が、放出しているエネルギーに圧倒されたんです。生きてきた喜びというか、自分の感情をあんなにも解放していることに感動して。サンバは基本的に振り付けがないので、音楽と歌の内容を自分の中に取り入れて、その気持ちと感情の起伏を表現して踊るんですが、いまだにサンバほど直接的に感情に訴えかけてくるダンスに出会ったことがない」
サンバの熱に“浮かされた”中島さんは、帰国から1年半ほどして、再びリオに向かった。カーニバルで踊るという夢を叶えるためだ。
しかし、道のりは決して平たんではなかった。
「練習会場に行って、踊らせてほしいと伝えると、話も聞いてもらえず、鼻で笑われて終わりでした。ブラジルの人たちは幼いころからカーニバルに出ることを夢見て、サンバの鍛錬に励んでいます。部外者の僕が入っていくのは簡単なことではありませんでした」
受けた嫌がらせは数知れない。指定された日時に練習会場に行っても誰もいない、ときには存在しないでたらめな住所を教えられる、チームメイトに衣装を盗まれたこともあったという。