1970年代と比べヒトの精子は6割減
2022年には、ヒトの精子の減少が加速し、「1970年代と比べると6割も減っている」という調査結果が発表された。これは1回の射精に含まれる精子の数を調べたもので、「欧米男性の精子の濃度が40年で半減した」との調査結果(2017年発表)で世界に衝撃を与えた研究の続報だ。
2017年発表の調査では、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドの男性の精子を分析したところ、1973年から2011年までに50%以上減少していた。
その後、同じ研究者が率いるチームが、2014年から2019年までに公開された精子サンプルの研究結果を分析し、以前のデータに付け加えた。すると、精子の総数は1970年代に比べて62%減少していたことが判明。さらに、1年ごとの減少率は2000年以降、2倍になっていることがわかった。つまり、精子が減少するスピードは加速しているというのだ。
環境とライフスタイルの変化
男性不妊に詳しい、泌尿器科医の小堀善友医師(プライベートケアクリニック東京院長)は言う。
「何が精子を減少させているのかについては、現時点では、はっきりした答えが存在しません。原因は一つではなく、時代とともに社会状況や生活様式が大きく変化するなかで、さまざまな要因が絡み合っていると考えています」
小堀医師が「原因として考えられる」と指摘するのは、環境の変化とライフスタイルの変化だ。
例えば、日本国内の研究で、大気汚染の原因であるPM2.5が精子の所見に悪影響を及ぼすというデータがある。大気汚染や温暖化などといった環境的な要因が、精子に影響している可能性もある。また、例えば肥満や睡眠不足など、老化のストレスを増やすような生活習慣が精子の所見を悪化させ、精子の中のDNAを損傷することもわかってきている。
「生活習慣に気を配ることで、自分の精子の所見を一定程度、改善させることはできるでしょう。それでも、加齢による精子の劣化があることは認識したほうがいい。
35歳を過ぎると、男性も子どもができづらくなるという現実があります。人生100年時代などといわれ、ともすれば生殖年齢も上がっていると思うかもしれませんが、それは違う。人間が生殖できる時間は昔から限られており、精子や卵子は私たちの体で、早い段階で老化が進むのです」(小堀医師)