父親の加齢は精子の遺伝子の働きに影響する(写真はイメージです/gettyimages)

加齢で“コピーミス”は増える

「こうした調査を裏付けるデータとして、父親の加齢が精子の遺伝子の働きに影響し、子どもの発達障害のリスクになることは、マウスの実験で改めて明らかになりました」

 こう話すのは、『脳からみた自閉症』などの著書で知られ、東北大学で副学長を務めている大隅典子教授(神経発生学)だ。

 そもそも、生殖細胞の作られ方は精子と卵子で大きく異なる。

 卵子の元になる卵母細胞は、女児がまだ母体内にいる胎生5カ月頃が最も多く、約700万個作られる。その後急速にその数が減少し、出生時には約200万個となり、排卵が起こり始める思春期頃には、30万個まで減少。うち、排卵する卵子の数は400~500個と1%以下とされる。卵母細胞の数は増加することはなく、35歳頃を過ぎると急速に減少し、卵母細胞の数が約1000個以下になると閉経する。

 これに対し、精子は幹細胞が分裂して自己複製し、精母細胞を経て膨大な数が随時産生される。この時、加齢とともにDNA合成時の“コピーミス”が増え、遺伝子変異した精子となる。

放出されるたび「フレッシュ」ではない

 さらに大隅教授が率いる研究チームは、父親の加齢によって精子形成におけるヒストン修飾や精子DNAメチル化が変化することで精子の“劣化”が進み、それが遺伝子に影響することを発表してきた。最近の調査によって、これらに加え、遺伝子の働きを調整する「マイクロRNA」も変化し、神経発達障害関連遺伝子の制御に関わることを明らかにしたばかりだ。つまり精子も、老化によって後天的に遺伝子の“働き”が変わるのだ。

「父親が40歳を過ぎて生まれた子どもは、自閉症などの発達障害が生じやすくなるという海外の研究発表を、改めて裏付ける結果となりました。例えば皮膚の幹細胞も老化していくように、精子の幹細胞も老化していく。体全体が老化するなかで、精子だけは放出されるたびにフレッシュというイメージがあるとしたら、それは間違っているのです」(大隅教授)

 そのうえ、近年、世界的に精液の質が低下していることが明らかになっている。順天堂大学の辻村晃教授の調査で示されているように、「これから子どもを希望する男性の4人に1人は、すでに精液所見が悪化している傾向にある」という驚きのデータもある。

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1970年代と比べ6割も減った精子