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 生殖医療が発展し、精子凍結をする男性が増える一方で、精子の質が世界的に落ちている。父親の加齢により、精子の状態は落ちてしまう。生まれてくる子どものリスクを指摘する研究もある。

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44歳の夫と妊活中の女性が受けた衝撃

 田島弘子さん(仮名・38)は、2人目の子どもを望んで妊活中だ。不妊治療を経て、長男を授かったのは3年前。出産直後は、「1人でも子どもに恵まれただけで十分」と思っていたが、息子が成長するにつれ、「この子にきょうだいをつくってあげたい」という思いが夫婦ともに強くなった。

 夫は6歳年上で、現在44歳。二人の年齢を考えると、タイムリミットが迫っていると感じた。2度目の体外受精は実らず、焦りもあった。

 そんな時、ふと目にした記事に衝撃を受けた。そこには、ある調査から導き出された傾向として、「高齢の父親から生まれた子どもは、自閉症などの発達障害が生じやすくなる可能性がある」とあったのだ。

 卵子の加齢が、妊娠率の低下や流産率の増加など、妊娠・出産に影響が大きいことは知っていた。だが、精子の加齢については、そこまで考えたことがなかった。男性の年齢も、多少影響はあるだろうとは思っていたが、60代、70代で子どもができた男性の話も聞いたことがある。「女性に比べて大きな影響がないのだろう」と思っていたから、先の記事は大きな驚きだった。

何があってもおかしくない年齢

 幸い、精液検査の結果では、夫の精子には特に大きな異常は見られなかった。だが、記事を見て以来、漠然とした不安感がつきまとっている。「無事に出産できたとしても、何があってもおかしくない年齢なのだ」。そんな気持ちが強くなった。

 父親の加齢が、子どもの神経発達障害のリスクを上げるという結果は、いくつもの世界中の疫学調査で出ている。なかでも、発達障害の一つである自閉スペクトラム症(ASD)と両親の加齢との関係については、世界5カ国、約600万人を対象に行われた、最大規模のメタ解析(2016年、Molecular Psychiatry)があり、母親より父親のほうが子どもの自閉スペクトラム症の増加に大きく関わることが示され、大きな注目を集めた。さらに、同調査では、父親の加齢が、自閉スペクトラム症以外にも、統合失調症や低IQ、双極性障害や社会性低下、出生時低体重などに影響するとされている。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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