生殖補助医療のリスクとは

 前出の大隅教授は、「加齢は次世代の発達障害につながるリスクがある」という先の研究結果を受け、昨今の不妊治療の広がりを踏まえつつ、「高年齢での妊娠・出産を技術的に可能にする、体外受精をはじめとした生殖補助医療のリスクについて、今一度考えるべき」と指摘する。

 その背景の一つが、京都大学の研究チームが2023年11月に発表した、「生殖補助医療のリスクが子ども世代、さらに孫世代にまで伝わる可能性がある」という調査結果だ。

 京都大学の篠原隆司教授らがマウスを用いて実験したところ、精子を卵子に直接注入する顕微授精(卵細胞質内精子注入法)を使ったマウスの子に行動異常が見られたほか、子は正常に見えても孫以降の世代に先天奇形などの異常が見られたという。マウスを用いた実験だが、マウスと同じ哺乳類であるヒトも、同様の仕組みで次世代に影響する可能性があるという。

「生殖補助医療は一部に保険が適用され、“リスクが低い”と捉える人が増え、ハードルが下がってきています。ただし、生物学的に見れば、体外で受精卵を培養することも含めて、中長期的に本当に安全な技術と言えるのか、まだわからないことも大きい」(大隅教授)

 日本産科婦人科学会のデータによれば、顕微授精で生まれる子どもの数は横ばいの傾向にあるが、凍結した受精卵を用いた胚移植は年々増加している。

「凍結融解が受精卵にもたらす影響について、世代を超えた検証がなされているとは言い難く、精子凍結にもそれと同じことが言えます。生殖補助医療について、リスクが次世代以降に伝わる可能性もあることはもっと知られるべきです」(同)

70代で子どもを望む人も

 晩婚化、晩産化が進む現代において、凍結技術の応用や生殖補助医療は、妊娠の可能性を広げてくれる。子どもを望む人々の頼みの綱でもある。だが、リスクが十分に解明されているとは言い難いことも認識しておく必要がある。

 先述の小堀医師は、「高齢になって子どもを持つことが、技術的に可能になったからこその課題もある」と言う。「子どもがほしい」と小堀医師の元を訪れる高齢男性は、決して少なくない。60代のみならず、70代も一定数いるという。

「高年齢で子どもを授かっても、成年まで育てられるのかという疑問はどうしても残る。そういう意味でも、生殖補助医療についての議論はより深めていく必要があるのです」

(ライター・松岡かすみ)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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