人類の終着点

 先進国はすべて、人口構造の不均衡、子どもが増えないという理由から、ある意味で弱い国だということを理解しなければなりません。ロシアの出生率は約1.5で、アメリカ、イギリス、ドイツ、北欧諸国の出生率は約1.6です。日本はもっと低くて約1.3だと思います。中国は約1.2です。

 ある意味、先進国のシステムはすべて弱いのです。第一次世界大戦のときのように、国中から大勢の人々やエネルギーが集まっていた時代とは違うのです。

 先進国では老人が増え、子どもは増えない。だから、あのような大規模に拡大するような戦争は、考えられないことなんです。これは、もちろんヨーロッパにも当てはまります。

 ヨーロッパにおいて、アメリカの強迫観念となっているのは、ドイツとロシアが協力を構築することです。ウクライナにおける、アメリカの行動の主要な目的の一つは、ドイツとロシアの間に混乱と不和と対立を生み出すことでした。アメリカの目論見は見事に成功しましたが、戦争が終われば、必然的にドイツとロシアが互いに接近するときが来ます。

 それは、ドイツとロシア双方の利益になるからです。そして、この二つの国のいずれも軍事的に、攻撃的になる可能性はありません。

 しかし、こういった事態は世界の他の国々にも当てはまります。アジアにも当てはまると思います。中国の人口バランスが崩れているならば、中国の膨張は起こらないということです。

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エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd) 歴史家、文化人類学者、人口学者。1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新書)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。

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