エマニュエル・トッド氏

 私たちは、最悪の事態をすでに目の当たりにし、今こそ回復し始めるときだという考えを持っています。しかし、状況はまったくそうなってはいない。私たちにとっての最悪の事態はまだ来ていないのです。

 これこそ、私が恐れていることです。最悪の事態についての意識の欠如こそ、恐れるべきです。

 ――かなり悲観的な見方ですね。社会がより階層化され、学生が負債の奴隷となることで社会が封建主義的になる可能性があると述べました。あなたは、世界が無極化し、あるいは分断されているとおっしゃっていますが、将来を見据えた場合、異なるイデオロギーや価値観を持つブロックを橋渡しする、普遍的な価値が生まれてくる可能性はあると思いますか。 

 これが、私の姿勢のパラドックスだと思います。繰り返しになりますが、私は西洋人です。このように悲観的になるのは、西洋人として話しているときであって、単に自分の国だけでなく「自分の世界」のことを心配しているのです。

 しかし、世界で起きていることに目を向けると、私は悲観的ではありません。

 たとえば、ウクライナでロシアが勝利し、ウクライナの一部がロシアの主張する条件で割譲される可能性が高まっています。しかし、それがヨーロッパに政治的・軍事的な不安定化をもたらすとはまったく思いません。ロシアが、ヨーロッパの他の地域を攻撃する意図を持っていないわけではないでしょうが、人口的にも物質的にもその可能性はありません。

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