フランシス・フクヤマ氏

 大統領選を控えるアメリカで今指摘されている問題点は、実は35年以上も前から指摘されていた――。1989年に発表した論文「歴史の終わり?」で、米政治学者のフランシス・フクヤマ氏は西側諸国のリベラリズムが、人間のイデオロギー的進化の終着点なのではないかとの見方を示している。アメリカ建国時から、すでに危険視されていたものとは? 最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します。

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アイデンティティは、民主主義を脅かすのか?

 ――あなたの著作である『歴史の終わり』(初版1992年)は、とても有名な本です。しかし、この書籍であなたが「気概」という大事なコンセプトを紹介していることに気づく人は多くありません。気概とは、「尊厳を認めてほしいという切なる願いをあらわす人間の心の状態のこと」です。この「気概」や「アイデンティティの承認欲求」といった問題は、国内外の問題を把握するために鍵となるコンセプトです。これについても解説をお願いします。

 フランシス・フクヤマ:気概とは、「尊重・承認されたい」という欲求のことです。これには、二つの形態があります。まず「対等願望」と呼ばれるものです。ギリシャ語で「平等に尊重される」という意味です。これは、民主社会の基本的な特徴です。平等に扱われなかったり、他の特定の人から蔑まれたりすれば、とても憤慨しますからね。

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フランシス・フクヤマ

フランシス・フクヤマ

フランシス・フクヤマ 政治学者。1952年アメリカ生まれ。1989年に発表した論文「歴史の終わり?」で、西側諸国の自由民主主義が、人間のイデオロギー的進化の終着点なのではないかとの見方を示した。主な著書に『歴史の終わり』(三笠書房)、『IDENTITY(アイデンティティ)』(朝日新聞出版)、『リベラリズムへの不満』(新潮社)、『政治の起源』(講談社)など。

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