専門医からは「家族と自分は違う人間」だと意識するようアドバイスされた。
「母であり、妻であり、職業人でもあり、と様々な役割の中で生きている自分には役割を使い分けるプレッシャーもあったんだと気づきました。家族と切り離し、私自身にフォーカスできるようになって、ものすごく気持ちが楽になりました」
女性は更年期を乗り越えると解放感を得る人も多い。武内さんもそうだったという。
「女性とか男性とかを越えて、私は人として大地にすっくと立った感じ。女性は毎月の生理に加え、人によっては妊娠、出産という一大イベントも経験し、更年期の症状にも翻弄されます。でも、そういったすべてのことから解放されて本当の私自身になれる時が来るんです」
新しい世代には希望も感じている。ロケ先で「きょう生理なんで頻繁にトイレに行くかもしれません」と自分から告げる若いディレクターやアナウンサーも見かけるようになった。
「私たちの世代は恥ずかしさがあって生理のことは言いにくい。私より上の世代は更年期のことを話すのも抵抗がある。でも、生理も更年期も含めて女性の体のことを普通に話せる社会になれば、女性がもっと生きやすい社会になるはずです」
自分の道だけを
健康にはメンタルの維持も欠かせない。武内さんはストレスには若い頃から耐性をつけてきたという。テレビに出ていると、悪意のある反応や指摘を無数に浴びる。インターネットの時代に入る前から、「いつも自分の周囲にシールドを張り巡らせていた」と明かす。
「無防備だとメンタルが持たない。ですから、いろんな矢が飛んでくるのが当たり前と考え、目には見えないシールドで自分を守っていました。最初は全員に好かれようと思ったんですけど、それは無理だということがネット時代に入った頃に分かりました。だから、エゴサーチも一切しません」
武内さんが実践しているのは、「上も下も見ず、目の前の道だけを見る」というアドラー心理学の教え。NHKで司会を務めた「100分de名著」で紹介したオーストリア出身の精神科医で心理学者のアルフレッド・アドラーが唱えた処世術だ。
「上を見て自分はダメな人間だと思ったり、下を見て尊大になったりしないで、目の前にある自分の道だけを見てまっすぐ進めばいい。私は私の道を行くんだ、まっすぐ行こうって、いつも声に出して言うようにしています」
(構成/編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年3月11日号に加筆