露骨に性的な言動を口にしなくても、作品については最初の二言三言だけで、その後は異性関係や連絡先などを聞いてきたり、「食事に行こう」「今度会わないか」と誘ってきたりする人もいる。問題ない相手と思って名刺を渡したところ、作品や活動とは関係のないメッセージや不快な画像を送ってくる人もいる。
作家としては、来場者から「作品を気に入っている」と話しかけられれば、最初から無下にはできない。「作品を買ってくれるのでは」と期待もする。そして嫌な思いをすることがあるからといって、本人がギャラリーにいないわけにもいかない。
そんなマキエさんに、
「休みの日にギャラリーに行って若い女性作家と話をするのが楽しみ」
「ニコニコしてくれるので、キャバクラに行くより全然コスパがいい」
そんなことを悪びれずに言う人もいるのだという。
マキエさんは、ため息をつく。
「本当に当たり前のように目にする光景で、個展を開くと毎回、そういう人が必ず現れます。女性だけのグループ展を開くと、『ああ、また来たか』という感じです。体感としては20人に1人くらいですが、作家の年齢が若くなると、その割合はもっと増える感じがします」
最初は行為を「認識できない」
マキエさんが初めて「ギャラリーストーカー」を目の前にしたのは、作家活動を始めた9年前、50歳のころだった。怒りが湧くというより、何が起こっているか認識できなかったという。
ほかの女性作家に聞くと、被害に遭って1カ月後、ひどい場合では10年ほどたってから忌まわしい記憶がよみがえり、「あれはギャラリーストーカーだったのでは」と気がついたというケースもあったという。