「きょうは銀婚式だね」
「役に立たない私だけど、これからもよろしくお願いします」
初美さんが旅立ったのは、その約1年後のことだった。
一人残された側のその後も、人それぞれだ。10年目の今も、心にぽっかり空いた穴が埋まることはない。「妻孝行」をする前に先立たれてしまったことが悔いに残り、消えることはないという。
「恩返しできないままというのが、一番つらいんだよなあ」と、ダンカンさんは正直な胸の内を明かす。
それでも、ダンカンさんは父親として働き、妻に任せっきりだった家事を覚え、子どもを育て上げた。初美さんへの思いを文字やメッセージで発信し、彼女の存在を残し続けようとしている。
遊び大好き芸人夫と、共に生きたしっかり者の年下妻。
「ママリンは『戦友』だったと思っています。僕の妻であり、時にはきょうだいであり、母であり、子どもであり、同僚であり、先生でもあり。全部をひっくるめて『戦友』でした」
初美さんの姿を思い返しながら、ダンカンさんはまた涙をぬぐった。
(AERA dot.編集部・國府田英之)