実際、フキハラはその名が付くずっと以前から、日本の家庭生活ではよく見られた現象でした。それについては「妻が耐えるべきこと」「妻の美徳」と捉えられがちだった昭和の時代に比べ、「本来、異常なこと」「夫婦とはいえ、男女は平等のはずだから、一方が我慢し続けるのは正常の状態ではない」と人々が考えるようになったわけです。

 ところが一歩進んで最近気づいたのは、決して「妻(女性)だけが耐え忍んでいるわけではない」ということです。一般的にフキハラのイメージは、「イライラして不機嫌になる夫」と、それに「耐え忍ぶ妻」という構図です。ドラマや漫画でもよく描かれていますし、SNS上でも人生相談の欄でも、こうした悩みは決して少なくありません。社会学でフキハラを研究している大阪大学大学院生の岡田玖美子さんも、分析の中心は夫から妻へのフキハラです。

 しかし、「親密性調査」でフキハラの項目を訊いてみたところ、フキハラをしているのは夫(男性)側だけではなく、妻(女性)側にも多い実態がわかってきたのです。

「相手が不機嫌になった時、自分が謝ったり、ご機嫌をとったりする」と答えたのは、25~34歳の夫(男)が最多で、43%でした。一方、一般的にフキハラの被害者と目されがちな55~64歳の妻(女性)で「謝る」人は、わずか7%だったのです。そして55~64歳の妻の27%が「自分も不機嫌になる」と答えており、44%は「放っておく」と答えていました。自分も不機嫌になる割合は夫より妻が多く、年齢による差はあまりない。配偶者が不機嫌になった時の対応は、若年であるほど、そして妻より夫の方が謝ったりご機嫌を取る、つまり感情労働をする割合が高いことがわかります。よく、「夫婦喧嘩で、夫が謝る方が波風が立たない」と言われることがありますが、それを裏付けるデータでしょう。

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「不機嫌な妻」と「それに耐える夫」