患者や家族から「主治医に厳しい病状であることをピシャリと言われて傷ついた」「転移してから先生がそっけない」「医師の言葉が冷たい。もう少し言い方を考えてもらえないか」といった相談を受けることも多いという。谷さんはこう続ける。

 「医師は患者さんの気持ちは理解していても、完治が難しいといった現状や医療的なことは正確に伝える必要があります。しかしその多くが患者さんや家族にしてみれば『聞きたくなかった話』ですから、見放されたような寂しい気持ちになってしまうのかもしれません」

 そして医療者が忙しく、十分な説明ができていないことも、患者や家族の不安や不信感を大きくする。熊谷さんは言う。

 「医師だけでなく、外来化学療法室の看護師なども薬や副作用のチェックなどに時間を取られて、患者さんと話をする時間がなかなか確保できないんですね。説明する時も『少し立ち止まって患者さんに寄り添うことができれば、もっと理解が深まるのに』と思うことは多いですが、人員は限られているので、現場が回らなくなってしまう。難しいところです」

主治医の変更や転院で「見放された」と思う人も

 主治医との相性は大事だが、転移をきっかけに病院や診療科の変更を勧められるケースはとても多い。

 山本大輔さん(47)は、肺がんが肝臓に転移。呼吸器外科の主治医は抗がん剤で病勢を抑える治療を推奨した。かかっている大学病院では薬物療法主体の治療は、薬の専門的な知識を持つ腫瘍内科がおこなうのが通例で、山本さんも転科することになった。呼吸器外科の主治医はその日のうちに腫瘍内科の診察を受けることができるよう急いで手続きを進めてくれたが、山本さんは「絶望感でいっぱいになった」と振り返る。

 「これまで熱心に治療してくれた主治医から『僕の診察は終わりです。あとは腫瘍内科の先生に……』と言われ、匙を投げられたと感じました。そんな気持ちを引きずりながら、初めて会った腫瘍内科の先生に病状や薬の説明をされたところで、いっさい頭に入ってこない。この日どんな話をしたのか、何一つ思い出すことができません」

 また転移後に薬物療法を続けていた患者が抗がん剤の効果がなくなったり副作用が強く出たりして治療を続けられなくなった場合、地域の病院や在宅医療(訪問診療)に移るよう勧められるのもよくあることだ。緩和ケアを受けやすくしたり住み慣れた自宅で過ごせるようにしたりするためであっても、山本さんのように「見放された」と感じる患者も少なからずいる。

暮らしとモノ班 for promotion
スマホで調理する家電「ヘスタンキュー」と除菌・除臭・しわ取りできるスチームクローゼット「LG スタイラー」って何?
次のページ
先の見えにくい転移の治療は「お金」の問題も心配