<局所的な治療>
転移した場合でも、手術や放射線といった局所的な治療がおこなわれることはある。
一つはがんによって生じる症状をやわらげるため。特に放射線治療は、骨転移の疼痛の緩和や骨折予防、気道や消化管を圧迫しているがんを小さくして呼吸を楽にしたり食事をとれるようにしたりする、がんからの出血を止めるなど、さまざまな場面で活用されている。
もう一つは、転移が少数個の場合に、薬物療法で縮小した転移巣を取り除く手術や放射線治療で根治と同じような状態に持ち込めるケースもある。
<標準治療以外の治療>
研究段階の新しい治療を臨床試験や先進医療で受けられる場合がある。安全性や効果を確認することが目的で、さまざまな参加条件が設けられているが、自分の病状に合えば、選択肢の一つになる。
【治療その2】積極的な治療をしない
抗がん剤は薬の耐性でいずれ効かなくなる。さらに副作用でからだが弱ってしまったときは治療を中止せざるを得ない。
また、最初から薬物療法をしないのも選択肢の一つだ。
「当身体的に薬物療法が可能であっても、治療(通院)の時間をほかのことに使いたい、自然に任せたい、抗がん剤に抵抗があるなどさまざまな理由で薬物療法を受けない患者さんが1割くらいはいます。なにもしなくなるわけではなく、必要に応じて緩和ケアをおこなっていきます。患者さんが利用しやすい地域の病院や在宅医に引き継ぐことはありますが、医療とのつながりが切れてしまうことはありません」(同)
転移が小さいうちは症状が出ないことが多いが、がんの進行にともなって痛みや呼吸苦、倦怠感、腹水など、さまざまな症状が表れ、いい状態が維持できなくなることがある。
なかでも緩和ケアを要する代表的な症状が「痛み」だ。進行がん患者の約7割は、痛みがあるといわれている。ここ20年ほどの間に緩和ケアは大きく進歩し、医療用麻薬も含め鎮痛薬の種類が格段に増えた。鎮痛薬だけでなく、放射線治療や神経ブロック、体位の工夫、マッサージや鍼灸などいろいろな手立てで、痛みをかなりやわらげることができるようになった。痛み以外のつらい症状も、多くは治療法が確立されている。
「転移が進行していくと、臓器機能が低下したり、全身状態が悪化したり、合併症を起こしたりして、亡くなることになります。苦痛を和らげる医療はいろいろあるので、激しく苦しむことはありません」(同)
取材・文/熊谷わこ
※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2024』より