有志演奏会に向けて練習する東北ユース。3月23日の岩手を皮切りに被災3県などで「坂本龍一監督追悼演奏会」を開催。福島事務局の大塚真理は「周囲の思いに全力で応える人」と田中を称賛する(撮影/東川哲也)

 宏和君は生後間もなく「運動」に加わり、生後10カ月で先輩たちとの「対面」も果たした。

 当然ながら田中宏和が集まると、呼称が難しい。そこで田中は一人ずつあだ名をつけていく。土岐市の田中宏和は「新幹線の田中さん」、最初につながった田中宏和は「渋谷の田中さん」だ。

 田中に伴走してきた「渋谷の田中さん」は、「運動」の楽しみをこう説明する。

「去年の年末に集まった時は、大阪の田中さんの話から東西で『タナカ』の発音が違うって話で大いに笑って、名古屋の田中さんの新幹線の時間をみんなで気にして、最寄りの駅まで『じゃあね!』って送って。久しぶりに会うと嬉しいし、楽しい。遠い親戚みたいです」

都内の自宅で。廊下は哲学書を中心に書物がぎっしり。妻と娘の要望に根負けして飼い始めた愛猫の名は、偉大なる哲人「プラトン」。障子を破られても「プラトンなら仕方がない」と思えるそうだ(撮影・高野楓菜)

 田中もこう語る。「これはもう『拡張親族』だと感じる瞬間がたくさんあります」

 2012年、車いす生活を送る「ミニバンの田中さん」がオフ会に初めて参加した。会場は階段しかないビル2階の居酒屋。宴たけなわの会場で「ミニバンの田中さん」の到着をアナウンスすると、複数人が自発的に動いた。

「車いすを担ぐ人と田中さんを抱えて階段を上がる人にさっと分かれて。僕も動きながら、親類のように温かい姿に感動していました」

関係は「シン・親戚」 「感心力」で緩くつながる

 仕事の縁から田中と25年近い交流のある糸井重里(75)は、あくまで「運動」に無関係な立場から楽しく観察する中で、同様の見解を持っている。

「シン・ゴジラ的にいうならば、シン・親戚ですよ。血縁はないけれど、姓と名の両方とも同じという感覚は、きっと少しだけ『我(われ)』なんだと思う」

 若いころから田中の行動を見続けてきた糸井だけに、そのキャラクターを「感心力の男」と鋭く形容し、「ほぼ日刊イトイ新聞」でも紹介してきた。

「人の話に感心するのがうまいんです。話してるとすぐ、『それはいいですね!』。大人って出来そうにないことには感心しないものだけれど、田中さんは感心する気持ちをフリーにしてる。だから、なんでも始められますよね」

 この「感心力」こそ、同姓同名の250人をつなげる田中の「磁場」なのだろう。

 糸井は続ける。「きっとエネルギーが余ってるんですよ。体も大きいし気持ちよく食べるし。あのエネルギーを本業だけで使い切るのは難しい。いい遊びを見つけたよ」。さすがの観察眼である。

(文中敬称略)(文・浜田奈美)

※記事の続きはAERA 2024年3月4日号でご覧いただけます

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