運動公式グッズのロゴ入りTシャツ。英字の「グローバル・バージョン」ともども売り切れ中(撮影/東川哲也)
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 一般社団法人「田中宏和の会」代表理事、田中宏和。名前が同じ人たちとのつながりを楽しみつくす「タナカヒロカズ運動」を続けて二十余年。今や250人の会となった。一度はギネス世界記録も打ち立てた。すぐにセルビアでの記録に抜かされたものの、同国のチームと「国際同姓同名連盟」も立ち上げた。「運動=自分」と公言する熱量で、些細なことでも人は楽しくつながれることを、真面目に遊びながら実証し続けている。

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 昨年の年の瀬の東京・八重洲。ある居酒屋で宴会が開かれていた。男女数人が各テーブルに分かれて、嬉しそうに座っている。

「今日はよろしくお願いします。『ほぼ幹事』の田中宏和です」

「どうも、社労士の田中宏和です」

「自分は歯科医師やってます。田中宏和です」

 男性チームは7人全員が「タナカヒロカズ」である。女性陣も自己紹介を始めた。

「ニューヨーク在住の渡邊裕子です。よろしくお願いします」

「はじめまして。ワタナベユウコです」

 こちらも7人全員が「ワタナベユウコ」だった。

 名乗るだけでウェルカムな笑いが起きるという、大変ピースフルなこの宴会の実態は、同姓同名の集い「タナカヒロカズ運動」のメンバーであるタナカヒロカズたちと、その「運動」に触発されて2020年に発足し、現在48人が名を連ねる「わたなべゆうこの会」のメンバーによる懇親会だった。

 いずれの名前でもない人間から見ると、「名前だけで、なぜこんなに楽しめるのだ?」と首をかしげたくなる高揚感が漂う宴会だった。実際、この日は仕事で遅れて来たものの、「運動」のリアルな集いに初めて参加したタナカヒロカズは、「名前が同じというだけで本当に違和感なく、すんなり馴染(なじ)めました」と振り返る。

 タナカヒロカズ運動。都内の広告会社に勤める田中宏和(55)が、多忙な会社勤めと並行して続けてきた「同姓同名の集い」のことである。

 時は1994年の11月。田中はプロ野球ドラフト会議をテレビで見ていた。

「第1回選択希望選手 近鉄 田中宏和」。驚いて再び画面を見つめた。指名されたのは奈良県桜井商業高校の投手だが、自分のことのように喜ばしい、不思議な感覚に襲われた──。

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