1970(昭和45)年、大阪万博に合わせて制作した「太陽の塔」を背に取材を受ける岡本太郎
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 昭和の価値観で令和をぶった斬るドラマが話題を集めているように、にわかに昭和にスポットライトが当たっている。果たして昭和とはどんな時代だったのか。AERA2024年3月4日号より。

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 阿部サダヲ演じる昭和の体育教師が令和の世界にタイムスリップ、昭和の常識で令和の人々をかき回すドラマ「不適切にもほどがある!」。筆者は50代だが、昭和を描いたドラマを見ているうちに、あんなに嫌だった昭和が、妙に「懐かしく」思えてきた。体罰やセクハラは論外だが、困った時には助け合い、徹夜もいとわず仕事に打ち込む人がそこら中にいたあの頃。令和の現在はコンプラコンプラ言うわりには、「勝ち負け」がすべて。格差も拡大し、ネットの世界では「自分がやられて嫌なことは人にはしない」という最低限のルールさえ守られない。それに比べれば、当時は窮屈に感じた社会の雰囲気も「むしろよかったかも」とさえ感じる。

社会を斬るサザエさん

 そんな「古き良き昭和」を振り返りたい人、知りたい人にお薦めしたいのが、漫画「サザエさん」と当時の写真で昭和を振り返るムック「『サザエさん』の昭和図鑑」だ。アニメの印象が強い人には意外かもしれないが、「サザエさん」は新聞の連載漫画だった。そのため、作者・長谷川町子の社会に対する問題意識が随所に垣間見える。

 ある時にはオリンピックの感動が忘れられず、事あるごとに胴上げをしてしまう磯野家の面々。またある時にはサザエの投げた焼き芋が発端で、大学内でゲバルト(闘争)が起きる──といった社会風刺の利いた漫画がたくさんある。“昭和”を生きた世代には当たり前の日常も、令和世代には信じられないことの連続だろう。

ノリノリの岡本太郎

 昭和と令和の違いが顕著なのが「大阪万博」に対する国民の反応だ。2025年の万博は「パビリオンの建設が間に合わない」「インフレと円安で経費が膨れ上がった」「アンバサダーの松本人志が活動休止」など悪い話ばかり、国民の反応も鈍いままだ。一方、70年の万博は違った。

「サザエさん」には、万博期間中の大阪の宿を確保しようとやっきになっているカツオや、銭湯で「万博に行った」ことを自慢するご近所さんが描かれている。日本国民の大勢が、万博へ行きたいと夢見ていた。事実、入場者数は6422万人を記録。当時の写真や新聞記事を読み返してみても、芸術家・岡本太郎がノリノリでヘルメットをかぶって太陽の塔の建設を陣頭指揮している。政治家のみならず、あらゆる職種の人が懸命に協力し合った。来年の万博には当代一流の文化人がプロデューサーとして名を連ねているが、果たして岡本太郎のような後世まで語り継がれる功績を遺せるのか。そして国民は大阪・関西万博を見たいと熱狂し、大阪まで足を運ぶのか……毎週、万博について追及される吉村洋文大阪府知事の表情からはその予兆は見えてこない。ああ、昭和がうらやましい。(編集部・工藤早春)

AERA 2024年3月4日号