小川:僕の場合は、一度工学部に進学したんですけど、やっぱり文転したいっていって、1年留年して。去年、東大の学生が出している「東大新聞」のインタビューで「東大でやって良かったことは何ですか」って聞かれて、「留年」って答えたんですね。
大宮:なんか、分かる。
小川:人生の豊かさって、暇な時間をどれだけ楽しく過ごせるかが結構大事なんじゃないかなって気がしてるんで。東大は塾に通っていっぱい勉強して入学してくる人が多いんで、そうすると空いた時間に何していいか分かんないから、予定を詰めちゃうみたいな人が結構いました。だから、留年して、無の中から楽しめるような人になると、人生楽しくなるんじゃないかなって。
大宮:社会人になりたくなかったっていうのもあるんですか。
小川:なりたくなかったですね。朝、目覚ましで起きるの、昔から嫌いだったし、人が多いところ、苦手だったし。誰かに命令されて、それに従うのも嫌いだったんで、そもそも会社員にはなれないだろうなっていうのは、自覚はしてましたね。
大宮:じゃあ、研究職がいいなと?
小川:ただ、研究者も結局、サラリーマンと一緒だって結論に至って。
大宮:大学院で気づいたんですか。
小川:そうですね。教授たちが日常業務の半分ぐらいは、大学の組織運営をやってて。
大宮:そうなんですか。へぇ。
小川:ただ研究してればいいっていうわけではなくて、講義もしなきゃいけないし、組織としての大学の仕事もしないといけない。その上で自分の研究となると、研究の割合は少ないっていうのは見えてきましたね。
※AERA 2024年2月26日号