自然災害で、各地の鉄道網が大きな打撃を受けている。特に地方のローカル線は、ひとたび寸断されるとそのまま廃線となるケースが少なくない。廃線でどのような弊害が生じるのか。AERA 2024年2月26日号より。
* * *
鉄道の強みは、「大量」に人やモノを運べる点だ。旅客でも貨物でも、一度に大量に運ぶ場合のコストは桁違いに安く、環境性能も高い。鉄道・交通政策に詳しい北海道教育大学の武田泉准教授(地域交通政策論)は、これに「ネットワーク」を加える。
「全国に網の目のように張り巡らされたネットワークによって、災害など有事の際は、必要な人や支援物資を一度に大量に運ぶことができます」
そのネットワークがぶつ切りになることで、武田准教授は「遠回りや、いったん車や船に積み替えをしなければならず、災害時に迅速な対応ができなくなる」と警鐘を鳴らし、こう話す。
「廃線となる富良野-新得間で言えば、この区間は比較的大雪とはならない箇所を通っています。そのため新千歳空港が豪雪で使用できない時、雪に強い旭川空港を使うことになりますが、札幌-旭川間の代替ルートにも活用できるのがこの区間でした。それが廃線で使えなくなると、乗客は空港に足止めを余儀なくされることにもなります」
鉄道ジャーナリストの松本典久さんは、廃線により貨物ネットワークに影響が及ぶと指摘する。
「JRの場合、幹線を中心に旅客会社だけでなく、貨物会社も線路を使用しています。輸送需要の少ない場合、旅客輸送ならバスなどの代替手段もありますが、貨物輸送では簡単に代替することはできません」
JR貨物の大半の貨物列車はコンテナ方式で、途絶えた区間の両側に貨物駅を置き、その間をトラックに積み替えて結ぶことも考えられる。だが、積み下ろしの作業を考えると非現実的。結局、末端区間の鉄道営業もやめることになる、という。
貨物営業が行われていない路線では、「沿線の人々の心情的な問題が大きい」と松本さん。
「長い年月をかけて構築してきた鉄道であり、その誕生には何らかの強い理由があったはず。それがなくなるということは、孤立や寂寥の思いが募ります」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年2月26日号より抜粋