猗窩座が“よくしゃべる”のは、「強者」の、それも「人間」に対してのみなのだ。猗窩座のこだわりが、そこにあることがよくわかる。
よく“しゃべる”鬼・妓夫太郎
「遊郭の鬼」妓夫太郎は、猗窩座とは理由が違うが、非常によくしゃべる。音柱・宇髄天元が気に入ったのか、宇髄を褒めそやした。
<お前本当にいい男じゃねぇかよ なあぁ 人間庇ってなぁあ 格好つけてなぁあ いいなぁ>(妓夫太郎/10巻・第86話「妓夫太郎」)
妓夫太郎は戦略的な頭脳戦を好み、相手の戦闘力を冷静に観察した上で、会話の内容から敵の思惑を見抜こうとする。さらに、幸せそうな人間へのねたみや恨みを口にしている。しかし、宇髄に対しては、ひときわ彼の美しい外見と生きざまへの賛美が多く、妓夫太郎の理想や願望が見え隠れする。鬼になっても妓夫太郎が持っている“人間的な部分”だといえよう。
また、妓夫太郎は炭治郎にも頻繁に話しかけた。
<兄貴だったら妹に守られるんじゃなく守ってやれよなあ この手で>(妓夫太郎/11巻・第92話「虫ケラボンクラのろまの腑抜け」)
言い方や態度は悪いが、その内容はごくまっとうである。「みっともねぇなあ お前全然妹守れてねえじゃねえか!!」と嘲笑しながら、「まあ仕方ねえか お前は人間 妹は鬼だしなあ 鬼の妹よりも弱いのは当然」と炭治郎をフォローするような発言すらしている。
このように妓夫太郎の言葉は、宇髄には称賛、炭治郎には「兄としてしっかりしろ」というもので、まったく“鬼らしく”ない。表現が乱暴なのも、「鬼だから」ではなく、親から十分に愛情を与えられなかったがゆえに、「人間同士のコミュニケーション」を知らないだけなのではないか。初期の伊之助と比べてもそれほど変わらない。
鬼らしくない妓夫太郎
妓夫太郎は、宇髄たちとの戦いの最中、彼らにとどめを刺すタイミングが何度もあった。伊之助が胸を負傷した時、善逸がガレキに押しつぶされかけた時、炭治郎が気絶している時は絶好のチャンスだった。しかし、妓夫太郎はすぐに攻撃しなかった。彼は炭治郎を散々挑発しながら会話を続けた。