日々の会議はオンラインで。高2の息子に「お母さんたちの活動以外で人の役に立つにはどんな活動があるの?」と聞かれたと、頬が緩む。学校行事には進んで参加(撮影/篠塚ようこ)

 体こそ不自由だが、頭の回転が速く、魂ははちきれんばかりに元気。織田に関わった人たちはいつしか協力者になり、サポート側に回っている。視線入力ソフトを開発し、ウィーログの基盤も作った伊藤もそんな一人だ。

「障害者ができないことは、テクノロジーでカバーできることもある。織田さんは身を挺(てい)し次々と課題を突き付けてくるので、答えを出すのに必死です。しかも提出期限が短い」

 それでもサポートするのは、織田には身体障害者や社会の弱者のために命を削ってでも社会を変えたいという信念があるからだ、と伊藤はいう。

 そんな織田の綽名(あだな)は「篤姫」ならぬ「圧姫」。姫のような可愛らしい表情をしつつ、無言で人を動かす力があるからだ。元ホテルマンの松下雄一(41)と理学療法士の杉山葵(31)は、織田の「障害者に対する社会の壁を壊す」という強い信念に心を動かされ、ウィーログの事務局スタッフに転職。二人が口を揃(そろ)える。

「計画を実現しようとする力は半端ない。ただ即断即決なので、僕らは付いていくのがやっと」

 一方でアプリの保守・運営、進化には年間1千万円以上のランニングコストが必要とされる。これまでクラウドファンディングや寄付で賄ってきたが、企業との協働を探り自ら営業。持続可能なアプリに成長させなければ、バリアフリーな社会の実現は難しいという危機感があるからだ。

「寝たきりになってもおかしくない」身体状況ながら身を粉にして働く織田だが、代表を務めるウィーログや患者の会は無給だ。

「仕事をしている間はヘルパーを利用できない現行の福祉制度があるからです。障害が重くなればなるほど、仕事が出来なくなっていく仕組み。手助けがなければ何もできない今の私にはヘルパーさんは命綱。だからどんなに仕事をしてもお金をいただくことはできない。障害者から仕事を奪いかねないこの制度も、いつか変えたいですね」

 日本の車いす利用者は現在200万人と言われる。人はいずれ老いる。障害者に無関心でいることは、自分の将来に無関心でいるのと同じこと。

 織田は私たちの未来の水先案内人でもある。

(文中敬称略)(文・吉井妙子)

AERA 2024年2月19日号

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