織田のそばに夫・洋一がぴたりと寄り添う。洋一は友理子のケアは自分が完璧にやると考えていたが、最近はテクノロジーやヘルパーの力を借りた方が友理子の行動が広がることが分かった(撮影/篠塚ようこ)

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 そんな織田の行動にストップをかけるのが洋一だ。何でもやりたがる妻に「それはやる意味があるの?」とただす。無理は仕方がないが、無理し過ぎないように注意を払う必要があるからだ。だが織田は、それが腹立たしいと洋一を睨(にら)む。

「私は何でもすぐやりたいタイプなので、洋一さんが頭を冷やせと。でも冷静になって再考すると頷(うなず)いてくれる。結果的に思考がアップデートされることにもなり、それがなんか悔しい」

 織田が情熱を注ぐウィーログは昨年末、外務省が主催する「ジャパンSDGsアワード」の内閣総理大臣賞に選ばれた。この賞はSDGs事業関連で、最も実績を残した組織・個人に与えられるもので、「コミュニティ活動を通じて情報収集・発信を行い、世界中でリアルタイムにバリアフリー情報を共有できるシステムは、国際社会でのロールモデルとなり得る」と評価された。

 ウィーログは、車いすで「行けた」という情報を発信することで、誰かの「行きたい」を手助けするアプリ。車いすユーザーの外出はハードルが高いが、それでも車いすで行けたレストラン、観光地、あるいは駅のエレベーターの場所などそれぞれ気が付いた情報を地図に投稿。2017年5月にスタートさせたこのアプリは今や10万以上ダウンロードされ、10言語に対応していることから、62カ国の人が利用している。

 当初は各地の車いすユーザーが街歩きイベントを行いながら、道路の段差や凸凹のある箇所、バリアフリートイレの箇所などを投稿していたが、現在は車いすユーザーの視線に立って施設をチェックする健常者の投稿が7割を超える。多様性を重んじる自治体や企業が、社員研修の一環でこの地図アプリを使い始めたことも一因だ。織田は、ウィーログは「世界一温かい地図」とほほ笑む。

「車いすユーザーも健常者も関係なく、それぞれが誰かの便利を想像し投稿している。アプリの中には人の優しさ、思いやりがぎっしり詰まっているんです」

 1980年、大学教授の父・大内宏友、母・広美の3人姉妹の長女として生まれた。子どものころからリーダーシップに優れ、中学時代は管弦楽部で日本一、高校時代は筝曲部で全国2位。興味のあることにはトコトン熱中したが、運動が少し苦手だった。

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