NHK大河ドラマ「光る君へ」も第6話。紫式部の永遠のライバル清少納言が登場する。清少納言は、感覚鋭い毒舌ブロガーか、あるいはおシャレな生活を切り取ったインスタグラマーか。そんな印象のある清少納言の『枕草子』だが、今も昔も表に見えている世界が真実とは限らない。清少納言が綴った華やかで明るい生活は、何を意味するのだろうか。『枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い』(朝日新聞出版)著者で京都先端科学大学人文学部教授の山本淳子さんが、『枕草子』が描かれた背景について語る。(2017年9月23日に配信した記事の再掲です)
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――清少納言のライバルとして知られる紫式部ですが、同時期の後宮で角を付きあわせていたわけではないんです。紫式部は清少納言が内裏を去った5年ほどあとに宮仕えをしているわけですから意外にも二人に面識はないんですね。にも関わらず、『紫式部日記』では清少納言を「得意顔」と猛烈バッシングをしています。
『紫式部日記』では「得意顔」だけではなく、「現実からかけ離れている」「ありえない空言」とまで酷評しています。清少納言が仕えた中宮定子は、一条天皇の寵愛を受けましたが、関白だった父・道隆という大きな後見を喪い、実兄が天皇家の人々を標的とする暗殺行為を行うという一家の不幸に、見舞われます。一家の零落に絶望し、一度出家するのですが、天皇の愛執ゆえに呼び戻される。けれどあらたな最高権力者となった叔父の道長による露骨ないじめに遭い、一条天皇の第3子を出産した床で24歳の若さで亡くなりました。その悲劇を知っている紫式部にとっては、『枕草子』はすべて嘘のように映ったのでしょう。
ひとりを愛してはいけない立場である天皇から愛されるという矛盾、政争に巻き込まれいじめ殺されるという矛盾、世の中とはなんと苦を抱えたものなのか――それが紫式部にとっての定子のリアルだったけれども、清少納言が描いた定子はよく笑っている。貧相な家で出産を余儀なくされるという場面でも、清少納言に「髪をちゃんとときなさい」と笑っている。「それは嘘だろう」と当時を知る人は誰もが思ったことだと思います。特に紫式部はまじめな人なので「本当のことを書いていない」と思ったのではないでしょうか。
――清少納言は定子の輝かしい時期だけを書き、美しいまま永久保存したということですね。それを徹底した目的はなんでしょうか。