PayPay、楽天ペイ、d払い…払い出しや送金に慣れておこう

 PayPayや楽天ペイ、d払いなどのコード決済アプリのユーザーなら、残高を銀行口座に払い出すことも可能だ。100~200円程度の手数料がかかる場合もあるが、有事にそんなことは言っていられない。

 また、家族や友人にアプリで送金してもらい、それを払い出す方法もあるだろう。送金は多くのアプリで一回10万円まで。ただし、アプリごとに銀行口座に払い戻しできる条件があり、例えばPayPayならPayPayマネーのみなど種類が決まっている。

 本人確認が済んでいないと口座払い出しが不可というアプリが多く、平時にその手続きを済ませておく方が安心だ。有事を想定するなら、スマホ送金や銀行口座への払い出しに慣れておくことも対策の一つだろう。

 他にも「ことら」に加入する銀行の少額送金アプリを使えば、被災地にいる人にスマホを通じて送金することができる。ただし、スマホが利用できる通信環境と、十分な充電があることが前提になることは言うまでもない。

 冒頭に戻って、「預金者本人であるとの確認が取れれば、通帳やキャッシュカードなどがなくても払い戻し等に応ずる」という部分だが、これまで筆者は非常持ち出し袋に免許証や健康保険証・マイナカードなどのコピーを入れておくべきと考えてきた。

 それに加え、スマホの電源が入り、通信電波が届く状態であれば、銀行のアプリを入れておけばスムーズだ。アプリ画面には本人情報、支店や口座番号などすべてが登録されているからだ。銀行側も、アプリを入れれば災害時も本人確認が容易であるとの点をアピールしてはどうだろうか。 

 とはいえ、むろん現金の用意も忘れてはいけない。非常持ち出し袋には当座のために一定額のお金を入れておくべきだろう。お店が再開してもお釣りが用意できないこともあるので、紙幣だけでなく小銭も入れておきたい。

 災害時は携帯電話が使えない状況もある。公衆電話をかけるためにも10円玉、100円玉の用意は必須だ。家に出番のないテレホンカードが眠ってはいないだろうか。平時ではほとんど使う機会はないが、有事にはまだ現役で公衆電話で活躍する。数枚ほど非常持ち出し袋に入れておくのもいいだろう。ただし、停電時ではテレカが使えないので注意。

 さらに非常持ち出し袋に必ず入れておくべきは、スマホを充電するためのコードやアダプター類だろう。先に書いたように、スマホがあれば身分証明もお金のやりとりも、アプリを通じてかなりのことが楽にできる。能登半島地震では、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル4社が避難所への無料充電サービス、モバイルバッテリー配布、Wi-Fiルーターの無償提供等を行った。スマホの重要度は増している。

地震保険は、建物だけでなく家財も忘れずに

 平時からの備えとなるのは、やはり地震保険への加入だ。地震保険は、地震や津波、噴火で住まいが損害を受けた時に支払われる。地震が原因で火災が起きた場合も同様で、能登半島地震では輪島市で大規模な火災が発生したが、この場合でも火災保険だけの加入では原則として保険金の支払い対象にならない。

 地震保険は火災保険とセットで加入するものだが、2022年度時点(速報値)で全国付帯率は69.4%。輪島市は68%、津波被害が甚大だった珠洲市は75.8%だ(損害保険料率算出機構データより)。

 ただし、地震保険の補償額は火災保険の30~50%までのため、再建費用をこれだけで賄うことは難しい。公的な「被災者生活再建支援制度」では全壊した建物を再建したとしても、支援金は最高で300万円までだ。また、建物の修復以外にもお金がかかる。

 損害保険料率算出機構の資料によると、家具・家電等の購入など生活再建のための費用が100万円以上かかったというケースが約7割を占める。自然災害の被害というと、住まいそのものを考えがちだが、建物だけでなく家財にも保険を掛けることを忘れてはいけない。(掛けられる地震保険の上限は、住宅が5000万円、家財が1000万円)。

 家財に保険を掛けるのは、手元に使えるお金を少しでも多く確保するためとの意味もある。先ほど書いたように、地震保険の補償額は最大50%まで。そこに家財の保険金を加えることで、受け取れる金額を増やすことができるからだ。

 保険金は使い道が限られているわけではないので、被災後の生活再建のために充ててもいい。「うちには高級な家具もないから…」などと考えるのは平時の発想であり、有事は1円でも多くのお金が必要になる。適正な金額の保険をかけることがいざという時にわが身を守ってくれる。

次のページ