「もう一人保育士を」配置基準の改善を求めてパレードする保育士や保護者たち(2023年11月19日、名古屋)

 そもそもの問題は…

 石濱園長は、そもそも国が定める保育士の配置基準が「適正ではない」と指摘する。

 厚生労働省が定める保育士1人あたりの配置基準は、0歳児が3人、1・2歳児が6人、3歳児が20人、4・5歳児が30人。4・5歳児については、70年以上も変わっていないのだ。

 前出の50代の保育士もこう話す。

「国の基準では、子どもをケガや事故がないよう管理することが最優先になってしまう。個々の子どもたちに合わせた保育をと思っても難しい」

 石濱園長はしみじみ言う。

「多くの保育士はやりがいを持って仕事をしていますし、こんなに笑う職業はないと思います。やりがいを感じているのに、それ以上に環境が過酷すぎて、余裕が持てない。とても悲しいことだと思います」

保育士の配置基準に見直しの動き

 こうした背景もあり、昨年末、政府は「こども未来戦略」に保育士の配置基準の見直しを盛り込んだ。24年度から、4・5歳児について、保育士1人あたりの配置基準を30人から25人に見直していくという。25年度以降、1歳児についても、6人から5人に改善していくことが記されている。

「基準の改正については歴史的な一歩だと思っていますが、現場としてはまだ十分ではないと感じています。なので、ここをスタート地点として、更なる保育士の処遇や保育園の環境改善を進めていくべきだと思います」(石濱園長)

 いっぽう、保育士の育成カリキュラムに課題もあるという。前出の天野さんは、保育士を目指す学生に対して大学で講義をしている。

ネガティブな感情とどう向き合うか

「家庭などで起きる虐待の類型やそれらを発見した場合の対処方法については学ぶものの、自分が追い込まれ、万が一にも虐待や『不適切な保育』をしそうになったときの対処方法は、カリキュラムにありません。保育士が追い込まれてしまい、ネガティブな感情を持った場合、その感情とどう付き合っていけばいいのか、教えられていないのです。これも『不適切な保育』が相次いでしまう原因の一つではないでしょうか」

 子どもの成長は大人の思い通りにいかない。愛を持って接したいと思っていても、常に理想通りにいくわけではないことは、子を持つ親なら誰しも想像できるだろう。天野さんは、「子どもが好きだから、虐待をするはずがない」という大前提で、保育士制度はできていると指摘する。

「保育士も人間です。心の余裕がないときには、怒りや憤りなどの感情を抱くこともある。そんな感情にどう対処すればいいのかを忌憚なく話し合っていくべきだと思います。そして、時には、保育室を離れ、一休みする時間を取って、気持ちをリセットする手法も、有効だと思います」

(AERA dot.編集部・唐澤俊介)

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