
「こうした行動はAちゃんなりのSOSだったのかもしれません。でも、当時はそんなことを考える余裕がありませんでした」
あるとき、Aちゃんが繰り返す“問題行動”に怒りを覚えた天野さんは、やめさせようと掴んだ腕につい力が入ってしまった。
「グッと力を入れてしまった瞬間、Aちゃんが萎縮するのがわかりました。大声で泣くAちゃんの声でハッと我に返りました」
あれは、今でいう「不適切な保育」にあたるのかもしれない、と天野さんは言う。
トイレ休憩すらなかなか取れず
保育のあるべき理想は頭ではわかっている。だが、現場は慢性的な人手不足だ。名古屋市の認可保育園「めばえ保育園」の石濱丈司園長は、園内の見回りをしていると、保育士たちから助けを求められることがよくある。
「トイレに行きたいので、保育室に入ってもらっていいですか?」
「気持ちが崩れてる子がいて、一対一で話を聞きたいので、他の子たちを見ててもらっていいですか?」
「職員室に持ち物を取りに行きたいので、ここ任せていいですか?」
手が離せないため、保育士たちは休憩を取ることもままならない。
「あまりにも人手が足りていない。トイレにすら行けず、膀胱炎になることすら、『保育士あるある』です」(石濱園長)
そんな現状があるところに、この「不適切な保育」問題だ。保育士たちはどう感じているのか。
「不適切保育」起こしかねないが46%
昨年6~11月、国の保育士の配置基準の見直しを求める「子どもたちにもう1人保育士を!」運動の実行委員会は、インターネット上で「不適切な保育を考える」アンケートを行った。「不適切な保育」を「子どもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」と定義し、「自らも『不適切な保育』を起こしかねないと思いますか?」と質問した。調査結果によると、「はい」と回答した人が46%、「わからない」が31%で、80%近くの保育士が無関係ではないと考えていることがわかったのだ。
石濱園長は、「子どもたちと適切な関わり方ができているのか、保育士も不安に思っている」と指摘する。
「子どもたちはいろんな要求をしてきます。これやりたい、これ嫌だ、トイレ行きたい……。それが同時多発的に起こる。すぐに対応できないときも多い。そんなときの子どもたちの悲しそうな表情や我慢している姿に、保育士は『適切な関わり方ができているのか』と思い悩んでしまう。それがアンケート結果に表れているのではないかと思います」