
大きな声で泣き叫ぶ園児。保育士は少し離れたところで見ているだけで、なかなか来ない。
【写真】“不適切保育”「起こしかねない」と約半数の保育士たちが不安に感じている
監視カメラでそんな光景を見たら、あなたはどう思うだろうか。「ひどい」「無視している」「ネグレクトだ」、そう早合点しないだろうか。
全国の保育園で「不適切な保育」や「虐待」が増加したことを受け、園に監視カメラの設置を、といった議論が盛り上がっている。だが、現場からは戸惑いの声も上がる。都内の認定こども園で勤務する50代の保育士は、「保育参観でもかなり緊張します。監視カメラが設置されたら、常に監視されている感覚になり、保育士になりたいと思う人が減ってしまうのではないかと心配です」と話す。
専門性は監視カメラでは評価できない
認可保育園で保育士として勤務した経験がある、中部大学非常勤講師の天野諭さんは、「保育園での我が子の様子を見たいという保護者の気持ちもわかる」としたうえで、監視カメラの設置についてこう疑問を投げかける。
「保育士は、子どもたち一人一人に合わせて接し方を調整しています。場面によっては泣いたらすぐに駆け付けるのではなく、子ども自身で気持ちを立て直すタイミングを待って、泣きやんだら抱きしめてあげようと考えているときもあるのです。こうした現場に根差した保育支援の専門性は、監視カメラだけでは評価できません」
「不適切な保育」や「虐待」が盛んに取り上げられるようになったのは、2022年12月、静岡県の保育園で30代(当時)の元保育士らが、園児への暴行容疑で逮捕された事件がきっかけだ。保育士らは「男児の足を持って宙づりにする」「カッターナイフを見せて脅す」などしていたという。事件を受け、こども家庭庁は「不適切な保育」についての実態調査を行い、23年5月にその結果を公表している。
「不適切な保育」914件 「虐待」90件の現実
それによると、22年4~12月に、全国の市町村が「不適切な保育が疑われる」として事実確認をしたのは1492件、うち914件が「不適切な保育」として認定、この中で「虐待」と確認されたケースも90件あった。
914件も「不適切な保育」が認定されたと聞けば、心配になる親も多いだろう。だが、何が「不適切な保育」にあたるのか、定義があいまいだ。天野さんは、「極端なケースは別として、対人間の仕事である保育について、適切か不適切かを明確に判断するのは難しい。自分も決して清廉潔白ではない」と話す。
保育士は多忙だ。仕事に追われ、心に余裕がなくなることは、天野さんにも経験がある。保育士になりたてのころ、クラスに他の園児を叩いたり、物を投げたりしてしまう園児(以下、Aちゃん)がいた。