「どこへ行ってもチームを率いることができる人材が組織にいるとすごく重宝します。マネジメントスキルを軽視すべきではないと思います」
宮坂さんには、決断に迷ったら「ワイルドな方を選ぶ」という生き方の指針がある。小池百合子都知事から副知事就任を打診された際も、「ワイルド度」が高いと判断して引き受けた。民と官の両方を経験した「次」は白紙というが、常に心掛けていることがある。できるだけ多種多様な人たちと会い、行ったことのない場所へ出かけ、未知の分野の本を読む習慣だ。
「日常の引力って強烈なので油断すると、自分の慣れ親しんでいる方を選びがちです。同じ人と会い続け、同じ系統の本を読み続けて同じ場所で生き続ける。そうやってずっと同じ流れに身を任せていると、ワイルドな流れに行けなくなってしまいます。僕にとっては道草してキョロキョロするのは人生を豊かにする上で不可欠なんです」
これから先、何となくイメージしているのは、働く時間を徐々に短くしていくことだという。
「急にリタイアすると暇をもて余すのは目に見えています。それを避けるためにも、いま週休2日で働いているのを週休3日、4日……と段階的に仕事を減らすのがいいと考えています」
その一方で、仕事以外に「人生で本当にやりたかったこと」を見つけて注力する。そのために大事なのは「キャリアダウン」だという。
「これからはキャリアアップにかかった時間と同じぐらい、徐々にキャリアダウンしていく必要があると考えています。これは、キャリアダウンの経験がない人ほど難しいはずです。登山部じゃなく下山部。山登りも下山するまでが登山なので、ちゃんと下りきらないといけません」
だが、そのロールモデルが今はない。「前半生、ひたすらキャリアアップに努めてきた島耕作さんにぜひ示してほしい」と話す宮坂さんに、「あなたがロールモデルを」と差し向けると、「いやいや僕は、途中で遭難するかもしれませんから」と笑い飛ばしつつ、「もう下山する準備は万全ですので」とのたまう。スノーボードやサーフィンなどアウトドアスポーツが何より好きという。引き際をよくするコツは、こうした趣味と友人の存在だと考えている。
「仕事がオンリーワンの楽しいことに見えてしまうと手放せなくなります。仕事を相対化できる人は仕事を辞めても別の場所で生きられます」