(写真:佐賀県提供)

 あの島耕作が今度は佐賀県の副知事に「就任」した。ビジネスエリートのキャリアはいつまで続くのか。この難題をヤフーの社長、会長を務めた後、東京都副知事に転身した宮坂学さんと考えた。AERA 2024年1月29日号より。

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 人生100年時代。高齢になっても働き続けなければならないのは自明のムードが漂う。社会とかかわり続けることは幸福感につながるメリットもある半面、「どんな仕事でもいい」という人はそれほど多くないだろう。もちろん、経済的に困窮すれば、そんな悠長なことは言っていられない。だが、トップを経験したビジネスエリートの場合はどうだろう。積み重ねたキャリアにふさわしい人生の花道を探すにせよ、引き際を悟るにせよ、常人とは異なる悩ましさがつきまとうのではないか。

 そう考えたのは、連載40年を迎えた弘兼憲史さんの人気漫画「島耕作」シリーズの新展開に接したからだ。昨年11月14日付で島耕作が佐賀県副知事に任命された。これは佐賀県の情報発信プロジェクト「サガプライズ!」の一環で、コミックで連載中の「島耕作」シリーズとは別枠。あくまで「架空の中の架空」の設定にすぎない。それでも島耕作の副知事抜擢(ばってき)には「なるほど」と思わせる妙味があった。作中で76歳に設定されている島耕作の身の振り方としていかにもふさわしいポストのように感じられたからだ。

「佐賀県副知事 島耕作」の執務室。佐賀県の情報発信プロジェクト「サガプライズ!」の一環だ(写真:佐賀県提供)

佐賀県の狙いと効果、様々なオファー舞い込む

 同シリーズの原点は1983年発表の読み切り作品「係長 島耕作」。その後、課長、部長、取締役、社長と作中で昇進を重ね、会長、相談役を経て現在は「社外取締役 島耕作」が連載中だ。島耕作の次期ポストをめぐっては、新シリーズの節目ごとに様々な臆測が飛び交い、中には「次は自治会長か」といった声も。

 佐賀県広報広聴課の柴田晃典係長は「これほど次期ポストをめぐって世間の注目が集まる人材は他にないと考え、ぜひ副知事として招きたいと思いました」と就任を持ちかけた経緯を振り返る。佐賀県は民間企業からの中途採用者の割合が全国1位。多様な人材を受け入れてきた県にふさわしい「人材」を射止める形になった、と満足げだ。作中の島耕作のどこに魅力を感じたのか。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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