「なお、民事の損害賠償請求権は時効期間が満了しています。刑事事件は、犯罪が成立したとすれば、成立する罪名次第で、時効にかかっている可能性があります。そもそも性犯罪は、被害を人に訴えるのに時間がかかります」(川本さん)

 告発した女性は、ジャニーズ問題の影響など世間の性暴力に対する意識が高まった今、MeTooと声を上げることで被害を知ってほしいと考えた可能性もある。

 文春の記事によると、被害女性は、芸能関係の仕事に携わっていたり、芸能界に憧れを抱いていた女性などとされている。記事が正しいとすれば、芸能界で地位を築いた松本さんと女性らとの間には、圧倒的な力関係の差があったとみられる。上谷さんも「性暴力は力関係があるところで起きやすい」と話す。

「一般論で言えば、被害者の心情を突き詰めると、加害者に罪を認めて謝罪してほしいというのが一番であるはず。今回の件は、双方の主張が真っ向から食い違っており、真偽が定かではありません。今の時点で、第三者が自分だけの正義に基づいて臆測を述べるようなことは、当事者を苦しめることにしかなりません。具体的な事情が不明な中、裁判にならないうちから周囲が勝手に争点を作り上げるべきではないと考えます」(上谷さん)

(フリーランス記者・松岡かすみ)

AERA 2024年1月22日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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