山田清機『寿町のひとびと』(朝日文庫)
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 母親は、介護の仕事を始めて日中は外に出るようになった。二世帯住宅の中に居場所を失ってしまったYは、中学に進学するとたびたび問題行動を起こすようになった。

「あるとき、飼っていたハムスターを殺してしまったんです。人体実験みたいにして。どうしてそういうことをしたか、よくわかりませんが……」

 祖父母の金もたびたび盗んだ。

「ある日、1階の祖父母の部屋に忍び込んで引き出しを開けてみたら、偶然ですが、けっこうな金額が入っていたんです。万札1枚ぐらいならバレないだろうと思って1枚だけ抜き取って、ゲームセンターや映画館に入り浸って使ってしまいました」

 父親は夜勤の翌日は日中寝ていたので、寝ている部屋にそっと忍び込んで財布から金を抜き取った。母親の財布からも金を抜いたが、子供らしい浅知恵というべきか、バレないようにとお札の形に切った紙を代わりに入れておいて、むしろ「犯行」を露見させてしまった。

「ある朝、父親にいきなりベッドの布団を引き剝がされて、『いつ部屋に入ったんだ!』と怒鳴られました。心のどこかに気づいてほしいという気持ちがあったのかもしれませんが、(父親にバレてから)ある寒い日にお金をたくさん取って、食糧をたくさん買い込んで、ビルの非常階段の踊り場で夜明かしをしたことがありました。すると、なぜか早朝に目の前を母が通ったんです。パッと目が合ったので、『誰にも相手にされないから、気を引きたくて金を盗んだ』と言ったら、母は怒らずに、『部屋に入りなさい』と言いました」

 母親の口を通して、

「Yだけ家を出ていってほしい」

 という父親の意向が伝えられたのは、中学1年のときだった。

 Yは中学校でも一度、盗みをしていた。教科書を持っていくのを忘れてしまい、クラスメイトの教科書を盗んだのだ。

「忘れ物をすると班で連帯責任を取らされるというルールがあったのですが、周りの人から何か言われるのも嫌だったし、他の人に迷惑をかけるのも嫌だったので、近くにあった女子のロッカーから取ってしまったんです」

 修正液で名前を消して自分の名前を書いて使っていた。ところが、自分の部屋から教科書が見つかったので、クラスメイトの教科書と自分の教科書、両方を学校に持っていって盗みがバレてしまったという。

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父親と母親が離婚することになり…