山折哲雄『ブッダに学ぶ 老いと死』(朝日新書)
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林住期とは「家出」をして自由になる時代

 さて、四住期の中身は何か。

 第一期の学生期は日々学び、親や教師に従う生活を送る、文字通り「学生の時代」です。

 第二期が家住期、家に住むです。仕事に就いて結婚して子どもを作り、「経済人・家庭人として活動する時代」です。

 そして第三期の林住期。当時のインドは家父長制の社会です。家庭を持ち、子どもを社会的人間に成長させたあと、父親は息子に家長を譲ります。そして家を一時的に出て旅をしたりしながら本当にしたかったことをする。つまり、「自由を享受する時代」です。

 旅に出て音楽の世界に入ったり、森に入って瞑想にふけったり、いろいろな人々と交流したりと、それまでの世俗的な生活を抜け出て自由気ままに生きる。場合によっては女に狂ったり、酒に溺れたりもする。とにかく一時的に家や家族の縛りから逃れ出て、自由な生活を送る時代が林住期です。

 これは要するに「家出」なんです。家を出るといろいろな発見があります。世俗的な心の疲れもリフレッシュされる。場合によっては自由に溺れて失敗して、のたうち回るような思いもする。林住期には人それぞれ、さまざまな人生的な経験をするわけです。今でもインドに行くと、そんなふうに生きている人たちがたくさんいます。

 林住期は中途半端と言えば中途半端ですが、自然の中での生活と旅暮らしの時代、あるいは瞑想と遊びの時代です。

 ただし、ほとんどの人間はやがてお金が尽きます。年も取るし、病気にもなります。家を出ているから、このまま死んだらどうしようと不安になります。つまり林住期は、だんだん老病死が近づき、その苦悩が深まる時代でもあるわけです。

 そういうプロセスの中で、さて、どうするかと考える。その意味では、林住期は自分の晩年に思いを巡らす自由な時間でもあるんですね。

 こういう時期をライフステージに組み入れたインドの賢人たちの人生観はなかなかのものです。私が知る限り、林住期のようなカテゴリーを人生観の中に取り入れた民族、文化はインド以外にあまりありません。

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遊行期に進んだほんのわずかな人が釈迦でありガンディー