AERA 2024年1月1ー8日合併号より

 数カ月後、女性と夫は養育里親として認定され、初めての里子である10代女子を児相から短期で委託された。その子は母子家庭で育ち、母親からのネグレクトと暴力で一時保護となった。数カ月後、里子として女性宅へやってきたその子は開口一番、一時保護所についてこう言った。

「あそこ、まるで刑務所だよ」

 刑務所を連想させる厳しい管理が、虐待で心身にダメージを負った子どもへの適切な対応といえるのか。児相での勤務経験を持ち、福祉が専門の沖縄大学教授、山野良一さんはこう語る。

「職員への研修は義務ではなく、児童福祉への理解が不十分な職員もいます。運営のガイドラインはあるものの基準が何もなく、職員数も『児童養護施設に準ずる』なので、全然足りない。非行の子に対する施設での養育を導入して、厳しく指導にあたるところもあります」

「家の方が良い」と美化

 いかなる虐待も、子どもの心身に重い後遺症をもたらすものだ。なかには、医療的配慮を要する重篤なケースも少なくない。そのような子どもに、厳しい管理はどのような影響を与えるのか。「楓(かえで)の丘こどもと女性のクリニック」(愛知県大府市)の院長で、児童精神科医の新井康祥さんは、こう指摘する。

「保護されたばかりの子どもにとっては、一時保護所での厳しい管理や規則による窮屈さが、自分の気持ちを受け止めることを拒否されているかのように感じられ、家に戻って暴力を振るわれるとしてもその方が良かったと、虐待を受けた環境を美化してしまうこともあります」

(ジャーナリスト・黒川祥子)

AERA 2024年1月1-8日合併号より抜粋

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