つてもないのにハワイへ
「どうして日本はこうなんだろう」
そう思った時に、車いすに乗った80代の祖母がアメリカに行った時の言葉を思い出しました。
「日本ではつえを使って歩くととても邪魔になってしまうけれど、アメリカの人は車いすでもお先にどうぞってみんなが言ってくれるのね。ほんとに良い国ね」
そして私は、日本人がアメリカへ移住するにはどうすれば良いのかを調べました。はじめは長年父が仕事をしていたために少し土地勘があったカリフォルニア州が良いと思ったのですが、なかなか有益な情報に出合えずにいたところ、ハワイ州にある日本人の子ども向けの留学エージェントを見つけたのです。
ハワイは暖かくて湿度が低く、さらに日系のドクターも多い場所です。長女が暮らすにも最適な環境かもしれないと思いました。
何のつてもありませんでしたが、私はそのエージェントにメールを送ってみることにしました。足が不自由な息子がいること、その息子にどうしても教育を受けさせたいこと、住んでいる地域ではそれがかなわないかもしれないこと、海外との流通会社を経営している夫の仕事を通じてビザを取得できないかと模索していること……メールだからこそ、誤解の無いように我が家の状況を細かく伝えました。どんな返信が来るのか、もしかしたら来ない可能性もありましたが、自分にできることはすべてしておきたかったのです。すると返信はほんの数時間で来ました。
「日本の閉鎖的な感じがすごく伝わってきました。アメリカの教育の基本はインクルージョンですよ! 思い切ってハワイに来てみませんか? 私も夫もできることは何でも協力します」
仕事とはいえ、見ず知らずの人にこんなに寄り添ってくれる方がいるのかと驚きました。さらに文面から彼女の明るさが伝わってきて嬉しくなりました。こうして本当に勢いだけでどんどん準備を進め、このメールのやりとりから5週間後の12月にハワイへ行くことになったのです。息子の4歳のお誕生日の2週間前でした。
子どもには伸びしろがある
今月、息子は16歳になりました。足は不自由ですが、それ以外はどこにでもいる高校1年生です。一人で歩いて電車通学をし、たくさんの友人や素敵な先生方に出会い、進学したい大学の学部も定まりつつあり、本当に楽しそうに高校生活を送っています。
絶望の中でハワイへ行ってから12年たって思うのは、「子どもには伸びしろがあり、必ず成長する」ということです。息子はその12年の間に、歩けるようになり、学ぶようになり、自分の身体のメンテナンスもできるようになりました。幼少期から見ると発達は未知数でも、振り返ると障害の有無や程度にかかわらず、必ず大きく前進しているのです。当時、息子の可能性を信じてくださった方々のおかげで、今の息子の姿があります。学ぶ力のあるお子さんがしっかりと学ぶことができる環境になることを、強く願っています。
※AERAオンライン限定記事