宮市亮著『それでも前を向く』(朝日新聞出版)
宮市亮著『それでも前を向く』(朝日新聞出版)

 ただ、それがすべてではない。たとえ今はそのような機会に恵まれていなくても、チャンスが巡ってきた時に力を発揮できるように、普段から準備を怠ってはいけない。そんな選手がたくさんいるチームは間違いなく強くなる。勝てるようになる。

 そして、チームの勝利がさらに選手たちを奮い立たせ、日々の努力を後押しする。F・マリノスにはそんな好循環が存在していた。だから強いのだ。

 F・マリノスに加入してから「チームのために戦うこと」の意味や、チームプレーの本質がわかるようになってきたと言ってもいいかもしれない。自分自身のためではなく、チームのために力を尽くすことが何より大事だと思うようになった。

 チームのために、今自分にできることをやり切る。それを続けていれば、最終的には、必ず自分自身に返ってくる。そう思えるようになった。

「自分のケガでふさぎ込むより、まずはチームの優勝の喜びを優先しよう」

 そんな今までにない心境になれた背景には、そんな経験の積み重ねもあった。

冷静に受け入れることができた診断結果

 ただし、日本代表の仲間とともに優勝の喜びに浸ったあとは、あらためて右膝の大ケガという現実と向き合う必要があった。

 試合後、すでに遅い時間帯だったが、ホテルに戻るチームメイトと別れ、日本代表の医療スタッフに付き添ってもらい、そのまま精密検査のために病院へ移動した。院内は真っ暗だった。

 MRI検査のためにベッドに寝かされ、半円形のドームの中に20分ほど入った。何度も経験していたが、これまでは寝てしまうことが多かった。

 ただ、この時だけは、いろいろなことを考えた。プロになった時からの思い出が、まるで写真や映像となって頭の中に次々と浮かんでは消えいった。

「次やったら、やめよう」

 そうぼんやりと考え始めたのは、2018年夏ごろ。きっかけは前十字靭帯断裂の3度目未遂だった。

 もちろん、周囲にはっきりとした意思表示をしたことはなく、妻にも、それとなく話したことがあった程度だったが、何となく心の中で決めていた。

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いろんな人に対する申し訳なさで、胸がいっぱいになった